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精神医学から臨床哲学へ (シリーズ「自伝」my life my world)

価格: ¥2,940
カテゴリ: 単行本
ブランド: ミネルヴァ書房
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学者の人生とは、仕事のあり方とは ★★★★★
木村敏先生は私の恩師の兄にあたるが、私の大学時代は先代の大橋博司先生が教授であったので、実際にお目にかかったことはない。私の恩師とは正反対の性格と伺っているけれど、重要な共通点は、多くの人に慕われる、ということであるらしい。また、私の恩師も、余人には絶対に真似のできない「トピカ」(p.25)の力を、著者同様、持っておられる。

私はよく人から、たくさん本をお読みになるのですね、主にどんな本ですか、と質問される。「哲学以外なら何でも」というのが、私のもっとも単純な答えである。だから本書の後半、著者の臨床哲学の生成と発展とを回顧するような構成は、私には辛かった。もう正直に、わからなかった、と言うべきだろう。それに、哲学嫌いの私としては、これは確かに学問だけれども、しかし果たして医学なのか、という思いもある。一方で、本書には私の知っている人が何人か登場する。恩師の昔についても、こんなこと私が知っていいのか、というような記述があって、読んでいて多少の罪悪感を伴う、禁断の喜びのような感覚もあった。

また、学者としてのあり方には、参考になる記述が数多くあった。昔大学で毎週一回行っていた勉強会が、ネタ切れと参加者のモチベーション低下とのため、風前の灯になったことがある。誰かが教授にお伺いを立てたところ「絶対に止めてはいかん」と一言。細々ながら継続されることになったが、時間の無駄ではないか、と私は内心不満であった。しかし、続かないのは参加者の意思の問題なのだ。熱意ある参加者による共同作業は、単独で続ける勉強とは違った意味がある。勉強会という「かたち」はとにかく続けろ、それが時間の無駄になるかどうかは参加者の意識次第だ、というのが、教授の教えであったのだろう。本書の本質からは外れるが、今後の仕事のあり方を考える上で、私にとって最大の収穫がこの点の理解であった。
大学教授が輝いた時代 ★★★★★
木村先生が自伝を書いたというだけで、一時代の精神科医たちは皆この書物を読むでしょう。
先生が精神病理学の第一人者となってからの記載は、伝記的な記録よりも、学説の発展の記載が中心です。
学園紛争当時の経過などはまだ生々しくて、書くことが難しいようです。それでも当時の学生運動への共感と違和感とが率直に書かれており、
貴重な証言です。
精神医学者になるまでの過程も、子供の頃から記憶力が悪かった(!?)、医学部卒業時に音楽への傾倒から耳鼻咽喉科の選択
を考えたことなど、驚くエピソードが多く、精神病理学者木村敏の素地を見事に示してくれました。

精神病理学という学問(著者は最近の精神医学の潮流になかば絶望して臨床哲学との言葉を使っています)が精神科医教育と臨床でどのように反映されるのかを改めて考えさせられます。

哲学の国際的な(ハイデガーも含めた)活発な交流風景も詳しく描かれ、こうした人間的つながりを背景に学問が発展するのだと目を開かれました。

今年2010年の精神神経学会で著者は、間主観的人間学をもとにした精神病理学を高らかに宣言して、教授定年後16年たっても、その立場に
揺るぎないことを明らかにしています。