決して万能ではない「ヒ」一族の設定が良かった。
★★★★☆
半村先生の本はいろいろと読んでいたが、うかつにもこの本は読んでいなかった。今読めて良かった。雰囲気はのちに書かれた「妖星伝」に受け継がれているように感じた。
導入部が京都の御所周辺、そして織田信長たちが戦っている戦国時代だったのですんなりと物語に入って行けた。さらに、「ヒ」一族の者はいわゆる超能力を持っているが、決して万能な能力ではなく、それゆえ、ふつうの人々と同じように亡くなっていく。そういう設定がかえって読みたいという気持ちをかき立ててくれた。
物語の途中で、三種の神器を使ったテレポート(ワタリ)の先が月へと、そしてさらに遠くの星へとつながっていることが匂わされたまま物語は終幕の現代へと向かうのだが、できればその謎解きも読んでみたかった…。
伝奇SFの傑作
★★★★☆
日本の歴史の動乱期にあって常に暗躍してきた伝説の一族、<ヒ>一族。彼らは高皇産霊神の末裔であり、日本の大地を西から東へと切り開いた先駆者であったが、その役割を終えると天皇家に日本の支配を委ね、皇室を蔭から支えることに徹したのである。
<ヒ>一族は念力増幅装置である御鏡・依玉・伊吹の三種の神器を用い、念力移動、遠隔精神感応など常人には及びもつかない超能力を駆使して天皇家の危急を救ってきた。しかし彼等の力をもってしても朝廷の衰微は止められず、彼等自身も次第に鉄の結束力を失い、多くは里者(一般人)に交じっていった。
ところが永禄11年、正親町天皇の勅忍宣下を受けて、<ヒ>一族の長である随風は織田信長の上洛を援護することになった。歴史の影に生き超然的な立場を貫いてきた<ヒ>一族は以後、否応なく俗界に関わるようになっていく。しかし彼等の真の願いは、人々の祈りを受けて明日への願いをいれる産霊山の総本山「芯の山」を見つけることにあった・・・・・・
戦国時代から現代に至るまでの裏の歴史を虚実織り交ぜて著し、圧倒的なリアリティを生み出した伝奇SF。<ヒ>一族と「芯の山」の持つ強大な力をめぐる権力者たちの欲望、その犠牲となる庶民の悲劇、人間の救いがたい業を描いた傑作。
連載開始時、作者の半村良はこの小説の種本として竹口英斎の『神統拾遺』という秘本を紹介したが、後に『神統拾遺』は架空の史料であり実在しないということを告白している。この巧妙な嘘に引っ掛かった読者は多く、作者のもとに「『神統拾遺』はどこにあるのか?」との問い合わせがしばしばあったという。史実に伝承や俗説、民間信仰まで組み込んだ作者の語り口が如何に迫真性を備えていたかの証左と言えよう。自らの職業を「嘘屋」と嘯いた半村良の面目躍如である。
壮大な歴史SFファンタジー
★★★★★
アポロ計画で月面探査の際に月の地表で
武士の死体が見つかった・・・。
戦国時代から昭和まで、「生」と「死」の真理について
作者独特の生命観によって話が進みます。
うーん
★★☆☆☆
ヒ一族という特殊な能力を持つ者の側から見た史実という着想は面白いです。
時空移動などわくわくさせられる筆力もあります。
ただ、余り根拠もなく「こうも考えられる」的な我田引水ムードが馴染めませんでした。
メイン登場人物毎に結構ぷちぷちと途切れ、幸せじゃない末路になっている点も、
幾ら戦争が絡んでいるとはいえ後味が悪い。
とはいえ、登場する人物に魅力のある人が沢山出てくるので、上記のような点が余り
気にならないタイプの方なら、読む価値があると思います。
伏線が展開した話が収斂していくところが見事
★★★★★
戦国時代、幕末、太平洋戦争という動乱の時期を舞台に、超能力を持つ忍者の祖である一族とその末裔の姿を描いている。しかも最終的には日本の中だけでは閉じずに、世界に広がっていく時空両面のスケールが大きな作品だ。
基本的には古代から混乱した社会を裏から操作してきた一族をめぐる伝奇小説であるが、三種の神器を駆使したテレパシーやタイムトラベラーというSF要素と、一族の役割というのが非常に斬新である。
いくつかの伏線で進んできた物語が同じテンポで結末に収斂していく様は、後に同じ作家が量産した「伝説シリーズ」に比べると良くできている感がある。(伝説シリーズは最後に畳みかけるような謎解きの展開の末、物語の始末を放り出したまま、あっけなく終わる印象が強い)
信長を中心とした戦国時代はよほど魅力的なのであろう、この作家だけでも本書を含めて複数の作品が同時代を素材としている。前半は信長異譚のひとつとして他作品と読み比べると面白い。
最後に本書全体の壮大な仕掛けがあるのがわかるのだが、この仕掛けには大詰めでうっちゃりを食らわされた気分で、そこは楽しい作家のお遊びに感じる。