おもしろい。
★★★★★
「どうして英語が使えない」も名著でしたが、本書も面白くて、夢中で読んでしまいました。英語・日本語の1対1対応を金科玉条にした迷翻訳をスバスバと斬っていきます。受験英語を必要としない大人にオススメの1冊です。
英語を得意になりたい人のために
★★★★☆
英語の読解力、速読がしたくてこの本を購入。
この本は、まず、日本人が英語を苦手とする理由として、日本の学校教育は基本的に読み込む英文の量が少ないことをしてきます。
なぜ、英文をたくさん読むべき理由は、英単語と日本単語がかならずしも対にして意味をなしているわけでないということをあげ、英単語の意味を日本単語でとらえることの有害性をあげます。
そして、むしろ英単語は、英文の多読により文脈の中から意味を把握するようにすることを勧めます。
その一番の方法として、英語の子供用の絵本を多読することからはじめ、ペイパーバックをとにかくたくさん読むことを勧めています。
この本の優れているところは、ただの英語力上昇をねらった技術本の領域を超えて、英語と日本語の言語比較の領域に到達しているところ。
読んでいて、勉強技術以上のものを感じました。
英語の読み物として、ふつうにおもしろい
★★★★☆
著者の主張する多読には賛成。
でも、多読だけで英語学習のすべてがまかなえるかというと、そこには疑問があります。
そもそも、私たち読者の多くが本書の主張を理解できるのも、著者が批判する日本英語 (学校英語) の知識が共通の土台としてあるおかげ。
それに英語学習にどれだけ多読を取り入れるのかも、各人の好みや目的により異なってかまわないはず。
「多読でなければ、絶対に英語はおぼえられない」 という思いこみをするよりは、もっと柔軟に 「英語の習得には、人ぞれぞれにむいた学習方法がある」 と考えたほうが、むしろ健全な発想といえるでしょう。
また、 「多読に賛成かどうか」 という視点だけで本書を読むのはもったいない。
ふだん学校英語や文法書では教えてくれない、貴重な知識を著者は提供してくれているからです。
自分の場合は、英文を読んでいて以前から気になっていたことが、本書の解説でいくつか氷解しました。
◎ 英語は語順どおりに理解しないと、文章に矛盾が生じるようなケースがある。
◎ 英語の人称代名詞は、文章全体のなかで人物の立場や関係をしめす役割をしているため、機械的に訳したり省略できるようなものではない。
◎ 英語には、 「文章の中で同じ単語を繰りかえし使わない」 という習慣やクセのようなものがある。たとえば同じ人物を指すのにも、さまざまな言い換えや形容がもちいられる。そういった慣習になれないと、ひとりの人物描写を複数の人間と誤って理解してしまうような原因にもなる。
◎ 英語には、熟語や文法の知識だけでは理解できない、膨大な 「決まり文句」 がある。
要するに多読というのは、英文を頭から順に読み理解することからはじまり、英語のさまざまな慣習や決まり文句をおぼえることだというふうにも言えそうです。
ただし、英語の勉強がまるで苦手だった人間がいきなり多読に手を出しても、挫折する可能性大。
実際には、ある程度の単語力と文法知識は必要です。
たとえば、英語の語順や時制、関係詞および句と節、準動詞などは、文法をとおし理解していないと、中学レベルの簡単な単語だけの英文でも、とんでもない誤読をしてしまうことになります。
この点については、 『新英文読解法』 冒頭にある、 「読解力基礎テスト」(20ページ程度) の解説が秀逸です。
さあ多読しようと英語の本を開いても、まるで見たことのない単語ばかりがならんでいるというのでは、やる気がなくなり挫折するのは当然。
絵本や童話レベルからはじめても、それら英文がなかなか読めない人には、とにかく単語本を一冊おぼえることをオススメします。
そうやって覚えた単語を核にして、さらに枝葉を伸ばすよう語彙を増やすと良いでしょう。
ほんとうに英語が苦手だった人は、中学生用の単語本から、それ以外の人たちには、1500語程度の収録をうたっている大学受験用単語本が、多読や学習のベースとして役にたちます。
ただし購入のさいは、かならず例文と発音記号の載った本を選ぶようにします。
単語を丸暗記する必要はありません。
まずは、見覚えのある単語をふやすことが重要。
見覚えがあるというだけで、その単語は記憶しやすさが4倍くらいアップするはず。
イチオシの単語本は、充実した内容と読みやすいレイアウトの 『データベース4500』。
文法書は、説明が簡潔で分かりやすい 『Harvest』 がオススメ。
古代の翻訳×現代の翻訳
★★★★★
ちょうど翻訳で悩んでいたときに、この本に出会った。
問題点がわかるようになった。
それだけ価値がある本です。
英文法に関しては、大西泰斗さん+ポール・マクベイさんのネイティブスピーカーシリーズに任せるとして、
英語を、その語順のまま、自然な日本語に訳す、という作業をきわめてむつかしくしているのは、古代(?)の英文解釈であることは間違いない。
英語をブラックボックスのような翻訳機にかけて、出て来た日本語訳を素晴らしいものだと盲信する、
そんな情けない時代は過ぎ去ったのだ。
原著者の本を読んでいるのか、訳者の魔法表現を読んでいるのか、
巧みな日本語訳を読んでいる限り、普通の人にはわからない。
欧米人だって、日本人と同じように息を吐き、息を吸う。その呼吸は複雑な方程式から導き出されるのではなく、小学生にもわかるような原理で動いているのだ。
翻訳の名著と呼ばれる本の大半は、原著者の文章力ではなく、訳者の文章構成力に依存するのだから、
訳者が素直でわかりやすい心の持ち主でない限り、
精神疾患のような下手くそな訳文か、ごまかし魔法訳になってしまうのもしょうがない。
この本はそんな古代の翻訳作業の一部から解放してくれた。
アプローチに無理があった
★☆☆☆☆
多読は私もお薦めなのですけれど、「英日翻訳の下手な人は英語を正しく理解できていない。学校英語に毒されているからだ」という展開は無理があると思います。
もともと酒井先生の多読のアプローチは「英語を英語のままで」というものですし、「日本語に訳そうとしないで」というものだったと思いますから、そうなると酒井先生の多読の生徒さんはみんな英語を正しく理解できていない、学校英語に毒されているということになってしまいます。
さらに極端な話では、英語ネイティブ(日本語はできない)が英語を読んで日本語に訳して出来なかったからと言って、その人が英語を理解していないとは言えないわけです。
その人のインプットが正しく為されているかを外部から判定するにはその人のアウトプットを見るしかないのですが、アウトプットの能力はインプット能力よりも小さいですので、そこを見てインプット能力を判断するのは危険です。
「上手く言えないんですけど..」という表現があるように、そもそも母語であっても上手く表現できないことがしょっちゅうあるわけですから。
山田雄一郎「英語力とは何か」(大修館書店 2006)も「翻訳に表れる英語力」と言う項から始めていますが、こちらの本では伝統的な四技能(読む・聞く・書く・話す)に「訳す」能力を加える考え方を紹介しています。
英語を英語のまま理解し出来るようになったとしても、英日・日英の翻訳が出来るということにはなりません。
海外での通訳養成学校の入学条件がバイリンガルであることとなっているのも納得できます。
英語理解が正しくなければ訳文は正しくないというのは正しいのですが、訳文が正しくない場合に英文理解が正しくないとは言い切れないという、逆は必ずしも真ならず、必要条件/十分条件、の整理が出来ていなかったと言うことでしょう。
残念です。
ただし、インプットの理解度をどのように測定するかという点は、テストをどのように作るかというところにつながって行きますし、興味深い点です。
ここについて引き続き酒井先生のお考えをうかがいたいと思っています。