評価が難しい
★★★★★
まず注意点を。
解説は絶対本編読了後に読むべし。
作品の結末に触れているところがあります。
「評価が難しい」というタイトルをつけて星5つとはこれいかにと我ながら思うのですが、
まずは星5つの理由から。
・なんといっても、ストーリーが秀逸であること。
あまたある欠点を吹き飛ばしてなおお釣りがくるくらい魅力的。
公務員(警察にかかわらず)・あるいは銀行員という職業の方には、一度は必ず経験されたであろう「こんな腐った組織辞めてやる」という思いをよみがえらせてくれ、これって創作じゃなく事実ではと思わせるほどリアルなストーリーに「あるよなこういうこと」と思わずうなずかされることでしょう。
「評価が難しい」という点について
・小説としてみた場合、?な点が多いこと。
その際たるものとして、
「刑事たちの夏」というタイトルのわりに「夏」を感じないことでしょう。
作品の終わりに若干出てきますが、それまではまったくといっていいほど
「夏」を感じさせない。いや刑事たちの執念こそが「夏」だといわれる方もいるでしょうが
「夏」の描写をいれるともっといいと思うのです。
三島由紀夫賞を取った著者には失礼かと存じますが、素人の正直な感想です。
また、物語の最後こそ小説っぽくなってはいますが、それまでは、やっぱりシナリオあるいはノンフィクションというのがふさわしい。
とはいえ、やっぱりストーリーが本当にすばらしい。
「こんな大げさなことってないで」と思う方も多いでしょうが、かなりリアルだと思います。
特に、社会的に大きな刑事事件の陰で、のちのち国民に大きな負担を強いる政治的なことがひっそりとしかし着々と進められる怖さなんかはまさにリアルです。
さて、作品の結末に触れるという「禁じ手」を犯した縄田一男の解説ですが、
日本における警察小説の流れをきちんとまとめてあって、なかなかのもんです。
「あっ、この人きちんと読んでるんだ」ってことがよくわかります。
最後に、こういう名作をよみがえらせた新潮文庫の力量を評価したいと思います。