ナポレオン側近の人物評伝
★★★★☆
本書ではミュラにフーシェ、タレイラン、パオリ・・・とナポレオンを取り巻く7人が取り上げられる。ナポレオン史の概略しかしらなかった私にとってはエピソードが面白く大変分かりやすかった。ただ、これまで関連本を4、5冊読んである程度の知識を蓄えている方にとっては少し退屈かもしれない。2時間程度あれば一気に読めてしまうお手軽さがある。
個人的に面白かったのがタレイランの章で、ナポレオンの側近でありながらフランスの外交・軍事情報をロシア皇帝やオーストリアのメッテルニヒに売り渡しワイロまで受け取っていたという話。本当にろくでもないやつだが、ナポレオンの退位後、反仏同盟軍に攻め込まれた際には得意の外交を駆使してフランスの国益を守った(後段は別の本で知った)というのだから人物評価は一筋縄にはいかない。フーシェがナポレオンの妻のジョゼフィーヌや秘書ブーリエンヌに金を渡してナポレオンのプライベート情報まで入手していたという記述にも驚かされた。
そういえば「ナポレオン自伝」をまとめたアンドレ−・マルローもカンボジアの戦地に赴いているときに現地で大事な美術品を盗んだにもかかわらず、後年はフランスの文化大臣として活躍したという話を聞いた。ふところが深く寛容なフランスの国柄は学ぶべきところが多いと感じた。
非常に面白い!
★★★★★
ナポレオンの凋落は仲間による裏切りが原因といっても過言ではない。
しかし、ではなぜ彼らは裏切ったのか?
著者は7人の人間をピックアップする。
国王ミュラ、警察大臣フーシェ、元帥マルモン、外務大臣タレイラン、警視総監パスキエ、元帥ベルティエ、英雄パオリ。
裏切った理由も様々で、虚栄から、野心から、憎悪から、欲望から、正義から、失望から、理想から。
個人的にパスキエはナポレオンからすれば裏切りだろうが、果たして他人にはどう写るのか…。
部下の背信行為に英雄の孤独の寂しさを感じさせる
★★★★★
世の中、きれいごとばかりでは済まされない。あの栄光のナポレオンの部下でさえ、背信者としての暗部を秘めて、劇的である。著者はその影の部分にスポットを当て、抉り出す手法をとる。勝てたはずの戦いをはてぼくさせ、ナポレオンの人生を歪め、帝座から転落させた。本書は、「裏切り者」と言われた男たちの心理に迫り、人間の深層心理としての「欲求」「自尊心」「嫉妬」「信念」の真相に迫っている。
百日天下を崩壊させ自己保身に走った義弟「ナポリ国王ミュラ」、流刑地セント・ヘレナへの道をつけた寝返りの名人「警察大臣フーシェ」、首都パリを明け渡し二つの顔を持っていた男「警視総監パスキエ」、自己解放のちめワーテルローを敗戦に導いた男「元帥ベルティエ」ほか7人の腹心の部下の裏切り・背信の真実に迫り、「英雄の孤独」を暗に描いて「人間の寂しさ」を伝える一書である。
裏切るということについて
★★★★★
「裏切り」という行為には、裏切者と裏切られる人の二人が登場する。そして、二人の間は信頼関係で結ばれているのがふつうである。少なくとも、裏切られた人は裏切られるまで信頼の気持ちを抱いている。
本書は、ナポレオンを裏切ったと言われる人の置かれた状況や二人の人間関係などにスポットを当てて、彼らの「裏切り」行為を再検証した書物である。「裏切り」行為に至る過程とその原因の分析・推理がしっかりしていて、読ませる内容となっている。
一口に「裏切り」というがその原因は様々だ。国家の行方を思ってやむをえずにすることもあるし、そんな状況に置かれれば誰もがそのような行動をせざるを得なかったと思われる場合もある。あるいは、典型的な「裏切り」のケースもあるし、「そこまでやるか」というような徹底的な「裏切り」の場合もある。ナポレオンの生涯が劇的に彩られているのと同じように彼を取り巻く人たちの生涯もそれなりに劇的だった。一生の浮沈がそこで決まる以上、裏切りの内容も一筋縄ではいかない。見破られるような分かりやすい裏切りは、裏切りとしてのレベルは低いとすら感じられる。
その意味でフーシェの場合が印象深かった。裏切りとは、行為においても動機においても、こうでなくてはならぬと思う。