秘太刀命名の見事さ
★★★★★
本作で扱われる秘剣は,次の八つである。
邪険竜尾返し
臆病剣松風
暗殺拳虎ノ眼
必殺剣鳥刺し
隠し剣鬼の爪
女人剣さざ波
悲運剣芦刈り
宿命剣鬼走り
全部映画化したくなるが,一番興味があったのは『隠し剣鬼の爪』
でも山田洋次監督が既に映画化しているのであった。
残念剣版権切り
本当は★は八つです。
★★★★★
忙しい合間を縫って昼飯食べながら1頁1ページ、1作ずつ読んだ「隠し剣孤影抄」。近年映画化の続く藤沢作品だが2010年には本作所載の「必死剣鳥刺し」が公開されている。「隠し剣鬼の爪」も良かったが、「必死剣鳥刺し」も楽しみな作品。
小説で描かれた8つの隠し剣、最後に収録された「宿命剣鬼走り」もかつて時代劇スペシャルとして萬屋欽之助主演で映像化されている。家の存続の為に子供たちを失いながら耐えた壮年の男が、すべてを亡くした時、求めた道とは何だったのか?
「女剣さざなみ」も面白かった。心の通わぬ夫婦が寒々とした家庭を営む中で、避けて通れぬ亭主の危機が
降りかかる。家庭に夫婦の気持ちが通わぬことで、女房の心はさざなみたつ。避けて通れぬ事件の果てに夫婦の幸せを掴む二人の姿が何とも印象的な物語だった。
そういう意味では、本作でつづられる男女の在り方、「必死剣鳥刺し」も「臆病剣松風」も死をやり取りする必殺剣の使い手が切り開こうとしていたのは守りたい者への不器用なまでの思いであろうか?
藤沢周平も没後10余年経つ。遅れてきたファンにとって「これは!」と思う作品に巡り合うと、どうしても作家の周辺や人となり、作品やその映像化などが気になる。先日買い求めた「隠し剣孤影抄」を読み終えたばかり。朝日新聞社から2007年に刊行された「週刊藤沢周平の世界」を広げながらその作品世界を紐解く。著名な作家や作品の解説が副読本としてはとても面白い。
そんな折、2010年オール読物7月号での大特集を読んだ。本書は鬼籍に入って10余年経つも、藤沢作品を巡る周辺は映画化も続き藤沢先生の郷里・山形県鶴岡市では2010年春に「鶴岡市立藤沢周平記念館」も開館し、活況を呈している。
活況をといっても藤沢先生のお人柄や、作品を読み続けるに従いあまり華やかな場所を好まれない方、と推察する。そういった所も今回寄稿されているご息女遠藤展子さんの「父の里帰り」に詳しく紹介されている。
ただ強いだけじゃないのだ
★★★☆☆
ただひたすら強いだけの剣豪小説も面白いのだけれど。
藤沢周平の世界では、そんな人は出てこない。
めっぽう剣の腕は立つけれど、酒と女にだらしなかったり、お金に抜け目なかったり。
この隠し剣シリーズでは、不倫している剣士や臆病で仕方ない剣士がいる。
ブスな女剣士もいる。ただし、このブス剣士、旦那のために果たし合いの身代わりを務め、見事的をやっつけ、「オレの間違いだった。これからは仲良くやろう」と改心させるという涙もの。
ほかにも、藩を守るためにいいように使い回され殺されてしまう人など、現代社会では命のやりとりはないけれど。
命を名誉や地位や富に置き換えれば、現代社会をよく観察している小説なのだ。
それでも、この本に出てくる8人の剣豪は、人生を後悔しない。
うーーん、ほれぼれする。
「秘剣」と「深遠な女性心理」の巧みな融合
★★★★★
数々の秘剣の呼称を各作品の題名に付け、その剣技の妙と共に男女の機微を描いた魅力溢れる短編集。特にヒロインの描写が玄妙を極め、剣技が霞む程。旧来の剣豪小説の枠をはみ出した意欲作と言える。秘剣の呼称を「邪剣」、「臆病剣」などと敢えてネガティヴに付けている所も心憎い。
「邪剣竜尾返し」は古代の歌垣を思わせる幻想的な冒頭から始まり、主人公の剣敵の妻の真意を中心として虚実が曖昧模糊としたまま物語が終ると言う奇譚。「臆病剣松風」は「たそがれ清兵衛」を思わせる内容で、ホノボノとした夫婦愛が微笑ましい。「暗殺剣虎ノ眼」は一見平凡な藩の権力闘争と見せかけて、結末でヒロインと読者を闇に落とす手法が卓抜。「必死剣鳥刺し」は主人公の過酷な運命と対比するかのような結末のヒロインの明るさと逞しさが物語に救いを与えている。「隠し剣鬼ノ爪」は木目細かい自然描写を背景に、秘剣の意外な用途、妖艶な美女の悲哀、純情な娘の可憐さが一体となって描かれた秀作。「女人剣さざ波」は既読だったが、何度読んでもヒロインの一途さと健気さに胸が熱くなる傑作。「悲運剣芦刈り」は男女の業の深さを扱ったものだが、秘剣の運命以外はやや平凡か。「宿命剣鬼走り」は二人の藩士と、二人が想いを寄せる尼の数十年に渡る宿縁をミニ大河ドラマ風に描いた異色作。
迫力ある剣技と深遠な女性心理と言う男性にとって魅力的な二大テーマを巧妙に織り交ぜて描いた時代小説の傑作短編集。
読み始めると止まらない!!
★★★★★
はじめて触れた藤沢周平氏の作品が本作でした。
『秘剣』を授けられた剣客8人のそれぞれのドラマが、各編にギッシリと詰まっていて、読む者を飽きさせない作品でした。
主人公たちはただ単なる剣を極めた武士ではなく、弱さや優柔を持った武士であり、藩命や愛する人の窮地を救うために秘殺剣を使う。
作品中の臨場感やストーリー展開が読者を釘付けにします。
時代小説に縁のない方にぜひ一読をお勧めしたい作品です。