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槿 (講談社文芸文庫)

価格: ¥1,785
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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平易そうで読みにくくもある ★★★★☆
 パラパラとページをめくってみると、実に平易そうに書かれている。難しい漢字とか、持って回ったような表現はあまりない。
 しかしそれでいて、人物関係や妄想や記憶を描き、その微妙なひだひだが難しいとも言える。
 全体的に、水のように透き通っているにもかかわらず、粘り気が、狂気のように存在している。そんな表現が見られる。
 微妙に内田百けんにも似通っているが、もう少しエロスを感じさせる。
 通念を逸脱した言葉や感覚が、冷たい湿り気のなかでひそひそと語られるという表現形態が、作中に語られる通り、「時間の流れが病んでいる」という不安と疲労感の感覚をそそるのである。
 中年になってみないと分からない、人生の無為さと逸脱というものが描かれているのだと思う。
記憶の逆襲 ★★★★☆
とある事件をめぐり、狂気と正常の境界がせめぎあう。
そんなせめぎ合いを静かな筆致で描いた秀作。
過去が現在の「私」といかに繋がり、「あなた」によってその記憶を否定される事が恐ろしいか。
「私」と「あなた」の記憶と想いが出会ったら、「私」が現実としてきたものと「あなた」が現実をしてきたものを、どのように解釈するか、されるか。

じわじわと侵蝕するように、登場人物達の記憶が混ざり合い、謎となっていく。
しかし、積極的に謎に挑みかかるような作品ではない。
出来事がどのように記憶に残り、今の「私」に作用しているか、また、他者の記憶によって、いきなり違う自分と出会い、躊躇う。
まさしく、自分の記憶が正しい、としてきた者へ対する、記憶の逆襲というしかない。