あくまで“作者の”実践
★★★☆☆
森村誠一氏がどのような心構えで何に気をつけて執筆しているか、を書いてある本です。
ハウトゥー本であるかのような売り文句が裏表紙に書かれていますが、
「ワシはこうやって書いておる」といった内容を羅列してあるだけで、
小説を書くための基礎知識はこれを読んでも身に着きません。
他の作家の作品を多数引用し、その魅力をいちいち解説していますが、かなーり冗漫です。
正直に私の心中を吐露するならば「ハズレ引いた!」ってとこでしょうか。
キャラクター造形について多少再認識させてくれる部分もあったので、ちょっと色を付けての星三つ。
書き方紹介ではなく、論文に近い
★☆☆☆☆
内容紹介に「時代小説、ミステリ、エッセイ…すべての書き方を解説した小説入門の決定版」とありますが、どちらかと言うとミステリーの要素が強いです。
「実践編」とありますが、具体的な実践方法は書いてありません。
作者独自の「小説方法論」が論じられているという感じで、参考になりませんでした。
プロの文体参考に
★★★★☆
旧版の「小説道場」が、加筆・改稿の上、分冊されて発刊されたもの。
あとがきが掲載されているのは「総論」のほうなので、実質的にはこちらが「上巻」にあたると思われる。(書籍番号は逆になっているが)
プロ作家の作品からの文章引用が多いので、「プロの文体」を知るには最適。
小説技巧に関する部分は、簡潔に、オーソドックスに、基本が語られているという印象。書き始めたばかりのアマチュアよりも、ある程度書けるようになった人が、これまでの知識の総論として読むといいような気がする。
注目点のひとつは、「描写」と「説明」の解説部分。小説を書く際には「説明するのではなく描写しろ」とはよく言われることだが、実際には、意図的に説明的な文章を使うことで、作中の効果が上がる場合がある。ミステリの謎解き部分や、SFでのディベート部分などがそうだ。
森村氏は、小説を書くうえで、例外的に「『描写』ではうまく効果が出ない場面がある」ことを認めたうえで、「描写」という表現の豊かさを、実例をあげながら説明している。(同じ内容が「説明」と「描写」ではどう違うか、実例をあげて比べている) 森村氏が、作家として、小説の観察眼に優れた人であることがわかる部分だ。
また、校閲に関するくだりは、森村氏の思考回路(文章のどこに価値を見いだすか)が垣間見られて、非常に興味深い。