心の深層で求めている夢治療
★★☆☆☆
まったく異なる性格の者どうしが同じ寮の部屋で生活する話です。始めは全く異なる性格の者どうしに思えましたが、次第にどこか共通点の様なものが見えてきます。
真穂は父親との微妙な関係に。沙月は姉を中心とした家族構造の変化に。それぞれ現実の世界ではどこか生きづらさの様なものを少なからず感じています。
真穂は一度眠れば深い眠りに落ち、その夢の中で現実の埋め合わせをし、それでも足りず演劇で自分自身を補うための劇を公演しようとする。すべては自分の満たされない心を治療するためが如く。
沙月は家族の生きる希望だった姉が消えた世界というか家族を上手くやっていけない状態で、姉が結婚すると聞いて、両親はそれに順応し自分は出来ないまま受け入れられないままという状態に陥る。そしたら不眠症になってしまって、安眠を求め彷徨う。それはあたかも真穂の作った演劇の世界のようなのであった。
兎に角二人は安眠を求めているように思えた。現実の世界でどこか上手くいかない自分自身を夢治療したいと深層で思っているように思えた。
なお表題作【至高聖所 アバトーン】は【第106回(1991年下半期)芥川龍之介賞】受賞作です。