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水辺のゆりかご (角川文庫)

価格: ¥3,000
カテゴリ: 文庫
ブランド: 角川書店
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自伝なのか自伝風物語なのか曖昧 ★☆☆☆☆
巻頭に家族親族や著者の幼少期からの写真が添えられていて、一見いかにも事実を綴った自伝風。
だが、「生後六ヵ月になっても頭髪が一本も生えなかった」と記されたわずか十数ページ前に
(生後五ヵ月頃の美里)のキャプションのある赤ん坊の写真。
その子はむしろ普通より髪が濃く、そのためにふさふさと立っているので、首を捻った。
ご丁寧にさらに数ページ先でも「二歳をすぎても私の頭には猿のような産毛が生えているだけ」と書いてある。
この冒頭の記述と写真のギャップで、この作品のスタンスの曖昧さを見てしまった。
実際の写真を添えるなら、自伝として嘘偽りのない真実だけを述べるべきだろうし、
自伝風物語とするなら、嘘と矛盾する写真など添えなければいいのだ。
いかにも真実のように語りながら、各所で自分に都合のよい嘘や誇張を織り交ぜているのだなと思うと、全編を本気では読めなくなった。
しかし、編集者も著者も、文庫化の時点になってもこんな重大な矛盾に気づかないとは、
ずいぶん杜撰なチェックしかしていないのですね。
幸せな家族とは? ★★★★★
自分で産んだ子供を持て余す親の、少しも生産的でない不可解行動(ネグレクトや虐待など)の理由が知りたくてこの本を読んだ。柳さんの家庭も、父親の極端な吝嗇と浪費、盗癖に暴力、母親の奔放な異性関係など、子供が生き生きと育ちにくい環境だったのだろう。柳さん自身は類い稀な画才と文才に恵まれているが、他のエッセイや、執拗に家族に拘る諸作品を読むと、彼女もまた自己と他者の狭間で危うく揺れている気がしてならない。彼女を傷つけた父親も、冷酷無情な虐待者ではなく一人の不器用な人間に見える。それがどうしようもなく哀しい。
強烈な個性と才能 ★★★★★
”集団になじめない”や”単独行動型”は、本当は人とのつながりを持ちたい気持ちの裏返しだと思う。本当にみんなのすることに興味を持っていない(持てない)なら、クラスのなかで1日中誰とも話さなくても、自分のことに集中していれば、辛いとか、寂しいとか、仲間はずれになっている、と感じないはずだ。『本当に』死にたい人は、独りで薬を飲むし、みんなから仲間はずれにされていても淋しさを感じないし、妻ある人の子を妊娠しても認知や命名に大騒ぎせずに”自分だけの”子供にすればよいのだし、大切な人の死に喪失感など感じないはずだし、つまり、そういうことの全てに何も感じないはずだ。だから、わざわざ学校で薬を飲んだり、不登校して部屋に立て篭もっても、自分で劇団に電話をできるなら「命」からも分かるように著者は誰より熱く人との繋がりを求める人だと思う。そして、著者が求める人との繋がりというのは”誰か”ではなく、磁石のNとNあるいはSとSのように、自分と同じものに引かれるが、お互いは反発しあう、といった人との繋がりだろうと思う。
柳美里のいた風景 ★★★★★
何とも運命的な出逢い方をしたこの本によって柳美里の虜となった私は、彼女の影を追う旅に出た。彼女がいた風景、全てをこの目で、この身体で体験してきた。横浜の彼女が歩いた坂道を昇ると、涙がこぼれてきた。彼女の「痛み」が伝わってきたのだ。彼女の唯一の心の安息場だった場所に腰をおろし、長時間を過ごした。そのうちに私は彼女の吐息をすぐそばで感じた。彼女の魂はまだ此処にいるのだ…彼女の原点となったこの場所に…。逗子の海へも行った。海を見詰めて、流れてくる涙を止めることができなかった。離れがたかったそれらの場所を離れ、帰路についた私は確信した。柳美里は私であり、私は柳美里であるのだ。…この本は彼女の自伝でもあり、私の自伝でもある。
柳美里のいた風景 ★★★★★
何とも運命的な出逢い方をしたこの本によって柳美里の虜となった私は、彼女の影を追う旅に出た。彼女がいた風景、全てをこの目で、この身体で体験してきた。横浜の彼女が歩いた坂道を昇ると、涙がこぼれてきた。彼女の「痛み」が伝わってきたのだ。彼女の唯一の心の安息場だった場所に腰をおろし、長時間を過ごした。そのうちに私は彼女の吐息をすぐそばで感じた。彼女の魂はまだ此処にいるのだ…彼女の原点となったこの場所に…。逗子の海へも行った。海を見詰めて、流れてくる涙を止めることができなかった。離れがたかったそれらの場所を離れ、帰路についた私は確信した。柳美里は私であり、私は柳美里であるのだ。…この本は彼女の自伝でもあり、私の自伝でもある。