フロイトを正しく理解するために
★★★★☆
フロイトのウィーン大学での講義を文章に書き起こしたもの。
最初の1冊目としてはお勧めはしないが、フロイトを正確に理解するためには是非読むべき。
話言葉なので、案外読みやすい。
分量が多いので、読むための努力は多少必要。
入門書の薄いものを読み、それから本書に進むのが良いかと思う。
薄いものだけを読んでいては、いくら読んでも正しい理解はできない。
感想
★★★★★
しかし、フロイトもここまで落ちぶれたとは、知らなかった。
まず、精神分析は現在でも臨床心理学ではメジャーではないのかな?
そして、「無意識の発見」が20世紀思想界に及ぼした甚大な影響を簡単に否定することは、<無知>としか
言いようが無いでしょう。
確かに、フロイト理論は一種独特な色彩を持ったものであり、通常の実証主義的な?心理学とは馴染まないのは
確かでしょうが、まずもって、実際に患者を治療するという、臨床の場から生まれた点を忘れてはいけないでしょう。
それは実績を積み重ねている。
また、夢判断が非科学的だと言うのも誤解であり、仮説と統計的な検証を踏まえている以上、十分に科学的方法
の基準を満たしている。要は、「心」という非実体的な存在に対して、どうアプローチするのか、という点であり、
実体論的(構造論的)に迫るか、機能論的に迫るか、の違いでしょう。
<行動>にも<脳>にも還元できない存在として、確かに<心>と呼ばれる何ものかがあるわけだから。
…それにしても、ヘーゲル、マルクス、フロイトを簡単に糟呼ばわりできるとは、無思想な世紀が始まったなぁ(慨嘆)。
以上心理学者曳地康君のコメントでした(笑
読みにくいけど良書
★★★☆☆
夢や錯語について、それぞれにこれだけの臨床例と分析、聞く者を納得させるだけの構成には舌を巻きました。
翻訳本とは思えないほど見事な饒舌、人を食った言い回し。引き込まれるような文章。巧みに散りばめられ、反論の余地をじわじわと封じていき、納得せざるを得ない論調。翻訳家の力量も感じられるなかなかの一冊です。
最初の方は、あまりにも慎重に精神医学を学ぶに当たっての注意事項が続き、退屈で、のっけから放り出しそうでした。それも講義が進むに従い、じわじわと有効にその前提が論者と読者をバックアップします。あえて初めからつまらなく、学ぶ者の意欲をそぐような精神医学の欠点から述べるフロイトの勇気と困難な研究の道のりを実感させられます。
専門書は、項目別に整然とした説明や図解が提示されるような思い込みがあったので、ひたすらしゃべり口調そのままの文章というのも意外でした。
実際に聴講したとすれば、その熱弁や一体感であっという間の講義だったかもしれません。しかし、例えばそれをビデオ録画したものだとすれば、全てを視聴するのはかなりの気力が必要でしょうし、活字となると……面白く興味深く引き込まれる論調なのに、なかなかページが進まずに難儀しました。
各項目の結論や決め手となる数語については、強調ルビが振ってあり、一度読んで理論が頭に入れば、後で強調部分だけ読み返し、実際に役立てる工夫もあり、助かります。
はっきり言って、読む労力がかなり必要で、項目ごとに知りたいことが簡潔に説明されてるものではないので、低評価としたいところです。
しかし、見事な翻訳者の力量、フロイトの論調と分析内容の見事さ、重要箇所の強調ルビのおかげで、何とか、買っても良かった、本棚に置いといても損はないと思い留まりました。
現代人の教養書
★★★★★
この本は「オカルト本」ではない。
この本は「最新科学の専門書」ではない。
この本は「自己」を「階層的・論理的」に捉える、その一助となる指導書である。
この本は「心」という形の見えない概念を論証するため、その論理的筋道は極めて難解を極める。
故に、「夢診断を占い」程度に学びたい人は別のムック本を選択した方がよい。
ただし、彼の論旨−もっと言えば彼の根底にあるリビドーまで理解できれば−を真に理解できれば、この本は「万物の本質」を考える素晴らしい経験・トレーニングになると思う。
そういう意味では、心理学を通じた万物の書、現代の「般若心経」と言えるかもしれない。
※繰返しますが、オカルト本ではないです。
<夢>に興味のある人におすすめ
★★★★★
太宰治は「斜陽」のなかに、「不良とは、優しさのことではないかしら」とか、「札のついていない不良が、一番、こわいんです」とかいう台詞をちりばめている。そんな台詞たちにであい、どきりとさせられた。これに似た<どきり>に、本著作の中でも、であった。正確な文章ではないかもしれないが、それは、こんな言葉だ。
悪人と善人との違いは、前者が実際に悪事を働くのに対し、後者は夢の中でそれを行う、というところにある。
<精神分析入門>というタイトルだけれども、私の印象が不正確なせいか、あるいは、私の興味がそこにあるからなのか、本著作の中心にあるのは、<夢>だ。少なくとも、私はそう思った。今朝、俺、こんな夢見たんだよな、いったい、どんな意味があるんだろう? なんて、興味を抱いた人も、気軽に、手にとって読んでみるといいかもしれない。