異論はあるでしょうが、ブラッドベリのあまたの短編の中で最高傑作はなにかともし訊かれたら,私ならこの短編集に所収された『発電所(Powerhouse)』をあげますね、きっと、というかやっぱり絶対。クラシックな佇まいを持ったままゆっくりと物語が語られ始まれクライマックスがあって静かにフィナーレを迎える・・・というよくある展開なのだが、ブラッドベリが料理すると斬新なストーリーに変貌してしまう。平面的な物語の所々にクレータのような突起物が出現し始め、最初と最後は実は同じシーンなのに全然違うシーンに見えてくるという、彼がこれまでにもなんどとなくチャレンジしてきた伝家の宝刀とでも呼ぶべき趣向とスタイルを若かりし28歳頃に既に確立した記念碑的作品だと思う。SFのようでもあり普通!尡!説のようでもあり純文学のようでもありネオロマン派ポエムのようでもあり、夫婦の愛と葛藤を描いたラブストーリーでもあり人間と電気との新しい関係を模索する〈発表年当時は1948年)未来小説でもある。さまざまな要素がコラージュされ違和感なく同居しているというこの感じは今読んでも<斬新>としかいいようがないクオリティだと思う。途中に描かれる発電所の音を鉄道線路から立ち昇る陽炎にたとえるシーンは今まで読んだ表現の中で最も美しい。翻訳者の至芸とでもいうべき<超訳>なのですが成功してると思う。原文と併せて読まれると味わいが一層深まっていきますよ。
それにしてもストーリーだけ読めばある意味で他愛のないこの物語をここまでのレベルに押し上げ高められる作家がこの世の中に何人㡊!!るでしょう。ミラクルだと思う,少なくともこの短編だけは。ブラッドベリでさえこの作品を超えられることは難しいんじゃないか、そのくらいの完成度だとということ。