まず第一に、プロットが駄目でした。この作品、出だしの謎自体は、なかなか魅力的なのですが、半分も読まないうちに最も安易な形であっさり解決してしまい、なんじゃいというところでした。話を面白くしようと、努力しているのはわかるのですが、その先はほぼお決まりの展開で、中途半端にシリアスな話だけにユーモアを入れることもできずにそのまま終わってしまいました。
人物描写は最初から捨てているらしく、いつも通り。シリアスであるべきこの作品に必要な心理描写には、涙ぐましい努力がはらわれてはいるものの、同じく中期の似たような「眠れるスフィンクス」や「囁く影」ほどではありません。本格ものとしては、下手ではないのですが、解説にある通り「古き良きイギリスの殺人のおはなし」であり、早い話が密室トリックに至るまで何も目新しいところは無いのです。全体的にあまり特筆すべき点は無い作品でした。