復讐の連鎖は無くならない
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大衆的、娯楽的と揶揄された近代アメリカ演劇の位置を徹底的に高めたオニールの代表作です。筋立てをギリシア劇「オレスティア」三部作から拝借し、彼の本来の持ち味である家庭への洞察心を完全に活かしきった大作であり、その完成まで二年の歳月を要しました。
当時の戯曲の常識から見ても非常に長い作品で、これは本来、ギリシアにて丸一日かけて上演された三部作を現代劇に仕立てたのだから、当然のことと言えるでしょう。参考に書くと、二年前の大竹しのぶ主演の上演では四時間半もかかったとのことです。
流行が始まっていたフロイト的心理学を熱心に研究したオニールは、のちにエレクトラ・コンプレックスとまで呼ばれるようになる家庭における母と娘との対立関係に着目しました。この劇において、従軍した父の留守の間に情夫を作る母を、娘である主人公ラヴィニアは許すことができません。父の帰郷後、そうした思いを抱きつつも、娘である自分ではなく、妻である母の方をより愛する父の姿を目の当たりにし、彼女は地団太を踏んで悔しがります。自らをこの世に生みだしたのは最愛の父と嫌悪の対象である母との愛であったことは揺るぎない事実なのです。
本作は第一部でその父が殺害され、第二部第三部でその続きの物語が展開されます。それぞれはアイスキュロス「アガメムノン」「供養する女たち」「復讐の女神たち」に対応していますが、中途から、殊に第三部において、原作からの改変が目立ちます。人が神々に囲まれていたギリシア時代からピューリタニズム隆盛のアメリカへの時代の変化は、構成、内容ともに演劇に多大な影響を与えたのです。よって、本作は単なる現代化ではなく、純然たるオニールの創作と捉えた方がよさそうです。
「復讐」という根源的な問題を扱う本作の結末は類を見ないほど衝撃的なので、ぜひ一読を。今回の復刊を逃すと新刊での入手が再び困難となるので、購入をお勧めします。