データのウソの理由への斬り込みに不足感
★★☆☆☆
本書は、社会科学調査の手法を利用して、いかにデータを正確に活用していくかについては十分に書かれていると思います。
しかし、データにウソを意識的に盛り込んでしまうマスコミや学者に対して、その是正を結局はモラルに求めてしまっている点に物足りなさを感じます。
そもそも、メディア・リテラシーの考え方から言えば、メディアが偏向報道をするのは、むしろ当然です。それを当然のこととした上で、その中から如何に正確な情報を選択するか、というのがメディア・リテラシーです。逆に、メディアに「正しいことを伝えよ」と強制するのは、むしろ報道の自由を委縮される負の効果を及ぼしてしまいます。
また、学者についても大同小異で、受け取り側としては、学者の偏向的な発言は当然で、むしろ、その学者がどのような立場にいて発言するかに注意を向けることが大切だと思います。
本書は、単に、「データのウソの見抜き方」だけに特化して記述し、マスコミ・学者に対する非難については触れないか、もしくは、もっと深い所から論じていくスタンスを取った方が良かったと思います。
JIN@<おとなの社会科>
自分で考えることと、それをするための技術を身につけることが大事
★★★★★
事実はどうやって明らかにされるのか。
「「理論」と「現実社会の実態」との整合性を調べる方法は、大きく分けて二つあります。特定の理論が、現実社会の実態と合致すうかどうかを調べる「演繹法」と逆に現実社会の実態を計測し、データ化したものからそれらを矛盾なく華麗に説明p.18しうる理論を構築する「帰納法」の二つです。P.19」「ほとんどの科学者が)一義的により正しい方法論と考えるのは、・・演繹法p.19」といった基本から著者は説き起こす。演繹的理論が日食等「将来に対する予測」によって実測・実証されることにより「誰もが納得し、その理論が矛盾なく成立するということが受け入れられ時、その理論は研究者間で「事実(正しいもの)」として受け入れられます。この・・プロセスは、理論の「一般化・・p.28」と呼ばれると明確な解説。
しかし、「一般化された理論とは、カール・ポパーにとって、単に長いあいだ否定されなかった、そしてそのぶん真実である可能性の高まった命題(仮説)であるにすぎないのです。p.31」と著者は言う。
科学において事実とはどのようなものであり、それはどのような手順で検証されているのか、非常にわかりやすく説明されている。
情報が溢れている社会において我々は生きていくために情報を使いこなさければならないが、「ネットに溢れる情報を使いこなすには、必要な能力が「少なくとも三つあります。まず基礎となる「教養」・・「リサーチ・リテラシー」・・事実や数字を正しく読むための能力。最後にゴミの中から本物を嗅ぎ分ける・・「セレンティビティ(serendipity)」・・総合的な思考力p.143」「セレンティビティ能力を鍛えるには、とにかく「考えるくせ」をつける必要があります。世の中の情報を鵜呑みにしないことp.147。」
こうしたアドバイスは民主主義社会において社会に責任を持つ我々誰にとっても有益だ。
なお、月刊誌の中央公論では親会社の読売新聞の批判をした批評は連載を打ち切られてしまうという状態にあることなど、世の中の不条理も解かっておもしろい。
社会科学入門
★★★★☆
本書は社会科学入門みたいな感じでしょうか。読みやすい本であります。印象に残ったのは、5章の最後の方にあった、マニュアルを作る人間とマニュアルに従う人間のところですね。できれば、マニュアルを作る人間になりたいですね。
<章ごとの内容>
第1章 社会科学における「事実」認定プロセス
・社会科学の真実は常に蓋然性を含み、ピュアな証明ができない。
・時間、空間、文化の差異による制限が加わる
第2章 マスコミはいかに事実をねじ曲げるのか
・相関関係とは、変数の一方が変化するとき、もう一方の変数の変化がランダムでない関係
・因果関係とは、変数の一方の変化によって、もう一方の変数の変化を引き起こす関係
第3章 実際にデータを分析してみよう―カフェインと心臓の健康度
・GIGO(ゴミを入れたら、結果もゴミ)
・正しく資料を集めても、オペレーションが間違っているなら、やっぱりゴミが出る。
第4章 質問票作りのむつかしさ
・文は平易な文章で、わかりやすさを旨とせよ。
・答えにくい質問は後のほうへ
第5章 リサーチ・リテラシー(数字や事実を正しく読む能力)とセレンディピティ(ごみ資料の中から本物をかぎ分ける能力)
・マニュアルを作る人間とマニュアルに従う人間
・数字を過信しないこと。疑うこと。
モデルの検証の仕方から構築の手順まで
★★★★☆
情報があふれる今の世の中。情報に対するフィルターの能力が求められていると思う。自分が最適なフィルターを持っているかを確認したくて購入、通読
読んでみると、仮説がどのように認められて事実になるかのプロセス、あふれる情報に対するフィルターの解釈の仕方、論理を作成するときのデータの使い方と新しいモデルの構築方法などを記載してくれている。おもしろかったのは著者が全編を通して自分の頭で考えて現状ある情報にフィルターを掛けるべきだと述べているところだ。現在のあふれる情報に対しての対抗策として有効だとおもうし、自分の中で考える習慣をつけるきっかけになる。また、まだ発信されていない情報にこそ価値があるといっているのも非常に面白い。
今の世の中でだまされないように、事実を検証するすべを学ぶことができる書籍になっていると思います。
タイトルからは、期待はずれでした。
★☆☆☆☆
本書では、「誤った方法」「悪質な方法」としてデータでウソをつく例が紹介されている。
マスコミはテレビであれ新聞であれ、結局のところ送り手に「客観的事実」は無く、全てのデータは「報道姿勢」のフィルタで歪められているという。社会科学のデータで客観的に正しいといえるのは至難だと思ったほうが良いくらいだとさえ言う。
実際、内閣支持率の数字にしても、マスコミによって偏向とも言える特徴があることは、よく知られえいるし、各種世論調査も設問の仕方によって結果は大きく違うことがよくわかる。
また、グラフや見出しやイラストによってもマスコミは読者を自らの思う方向に誘導しようとしていることもよくわかる。
本書は、私の好きないしいひさいち氏の四コマ漫画もうまく使って読みやすくしようという工夫もしている。
ただし、タイトルから受ける印象と比較すれば内容が社会調査のある一定部分に限られていることは非常に残念であった。学生が専攻している分野の参考にするには良いであろうが、忙しい社会人がわざわざ読む価値があるかどうかは疑問がある。