ヨシワラ殺人事件
★★★★★
アイリッシュの小説は大きく分けて3タイプあり、そのどれが彼の真骨頂かということについては評者によって立場が異なっています。第1のタイプは『幻の女』や『暁の視線』のようなタイム・リミット物。第2のタイプは『黒衣の花嫁』や『喪服のランデブー』のようなブラック物。そして第3のタイプが短編です。どのタイプもそれぞれ魅力的なので、私にとってどのジャンルが一番か、それを考えるのは楽しくも悩ましい行為です。
この『晩餐後の物語』は創元推理文庫のアイリッシュ短編集の第1巻にあたります。各々の作品の発表年が書いていないのですが、概ね時代順に並べてられています。第3巻の『裏窓』に比べると哀愁味はやや弱いようですが、その分心理的なサスペンスはさすがといったところです。ところで、ここに収められている「ヨシワラ殺人事件」はタイトル通り日本を舞台にしたものなのですが、アイリッシュはどうして日本の事情にこんなに詳しいのでしょう。欧米人が小説の中に日本を登場させたものの中で、こんなに正確なものを読んだことがありません。