元気のでる冒険小説!
★★★★★
この書籍を手にとったのは、なにより表紙のルネ・マグリットの大きな岩が海上に浮いている、じつに面白い絵があったこと。
そして、文庫の帯に
「はるかに高く遠く、光の過剰ゆえに不可視のまま、世界の中心にそびえる時空の原点―類推の山。(中略)“どこか爽快で、どこか微笑ましく、どこか「元気の出る」ような” 心おどる物語」とあったことだ。
実際に小説を読みはじめると、どうにも止まらない。
ある男性のふとした思いつきが、"私も同様のことを考えていた"という哲人の「類推=アナロジー」という魔法で次第に膨らみ、さらに賛同者をよびこみ、実際にそこに集ったものたちを旅へと向かわせてしまう勇気となり、冒険者たちの希望となるのだから。
果たして、その類推された目的地(不可視の山あるいは類推の山)は実際に見つかることになり、彼らはその山に上っていくことになる……。
この過程が何ともいえないーー。読者もまた、読みながら類推の山の実在を信じ、一緒にそれを見つけ、山に上りたいと思うようになる。男性と哲人、そして男性の妻、そのほか山を登るために集まったメンバーたちの有様を読むほどに、元気が出るのだ。
山にまつわる話中話もじつに美しい。(翻訳がじつにいい!)
私は山に登ったことはないが、山に上るとはこんなにも魅力的なものなのか……と思う。
卓越した手法で、人間の希望と努力をシュールな冒険物語の中に描いた傑作
★★★★★
シュールな冒険登山小説として有名な作品。「類推」には「アナロジー」とルビが振ってあるので直訳だが、冒頭では「象徴の山」の方が相応しい感じ。何の象徴かと言うと天(神)と地(人間)を繋ぐもの。その山は島上に存在し、現存するどの山より高く、不可視であるが、麓は可視でなければならず、麓には高次元の人類が住んでいる、と"類推"される。語り手である主人公と科学者兼冒険家のソゴル(logosの逆さ読み)のこの"類推"と熱情によって8人の登山隊が結成され、"不可能号"と言う名の船で「類推の山」を目指す。
ソゴルの超理論によって「類推の山」は南太平洋上に存在すると計算される。本当に面妖な物語だ。単なるホラ話を装った形而上小説とも取れるし、その逆にも取れる。その癖、旅行用具などの細部の描写はリアルなのだ。船上で披露される「空虚人と苦薔薇」の挿話も印象的かつ暗示的。そして、超自然現象によって突然、船の目前に目的の島が現われて、船は<猿の港>に曳航される。<猿>は勿論、現代人への揶揄だが、麓の居住者の大半がフランス人で、港の人々はアフリカ・アジア人達と言う設定は狭量か。島での通貨は特別なもので、上陸時に登山者に貸与されるが、最後に可能なら貴重な鉱石ペラダン(ダイアモンドより硬い)で返す必要がある。そして登山が近づくに連れ、一行はそれまでの職歴、科学者、医者、詩人などを捨て、子供のような精神状態になる。その途端、ペラダンが一個見つかる。これも象徴的である。そして、最初の設営地まで辿り付いた所で、作者の病死により物語は終る。
「一体、何故「類推の山」に登るのか ?」。この問いの解は無いが、「類推の山」は「<地>を<天>に結ぶ道」であり、人間の希望そのものと言う事なのであろう。卓越した手法で、人間の希望と努力をシュールな冒険物語の中に描いた傑作。
そこに山があるから?
★★★★☆
「類推の山」は、<天>と<地>を結ぶ、象徴的な山であり、人間的に「実在」しなければならない。
なぜなら、もし人間が到達可能でなければ、希望はなくなってしまうから。
世界地図から空白が消えて数世紀、冒険は果たしてこの世界から消えたのだろうか?
「類推の山」は、地図には載っていないが、確かに存在するという仮説のもと、そのことを信じて集まった人々が、計算と仮説に基づいて、冒険に乗り出していく。
冒険物語、SFのような「類推の山」の位置把握と行き方(漫画「ワンピース」を思い出しさえした)、また実際にあっさりとたどり着いてしまうところがおもしろい。
山を探し登る冒険小説ではあるが、同時に山は「天=高次」にたどり着きたいという、人間の果てしない望みの象徴でもある。
さて、では人は何を探し求めているのか?
「そこに山があるからだ」という答えは、実在の「山」に対しては十分な答えだろうが、さて象徴的な「山」に対しては?
「雲をつかむような」という形容句が似合う物語。
未完であることは、この作品の構造としてもぴったりだと思う(とはいえ、もう少し先が読みたかった気もするが・・・)。
人間に到達可能な高みに登ろうとする物語
★★★★★
高次なものへの憧憬の気持ちを駆り立てて、気分を高揚させるような感覚のある小説です。
現在真実であると思っているものごとが本当にリアリティそのものなのでしょうか、表面的な生以外で、
なにか本当にリアリティであると感じれることを追求する精神を本書は取り上げています。
人間に到達可能な高みに至ろうとする人々を描き出しています。
さらに物語の本筋に添えられる形で小さな話が話が挿入されていて、面白い味を出しています。
右に出るものはいない最高傑作
★★★★★
この類推の山は間違いなく私の中で最も好きな作品です。未完が嘆かれる本作ですが、私は未完だからこそ本作はすばらしいと思います。というのもその頂上=結末を知らないからこそ山の崇高さ、小説の美しさが生まれると思うからです。あくまでも類推を守ることで、この世の魅力を守っている。世界地図にはない世界がある。それを聞いただけで私は何度も胸をときめかしました。人間の根源にある欲望それを直接かなえてくれたのが本作なのです。それはエンターテイメントの極地でありながら小説の新たな可能性を示唆しているまさに類推の山。あなたも登ってみることを勧めます。