ナノテクノロジーとは、タンパク質で作った分子くらいの大きさの微小な機械を、製作し利用する技術のことである。遠隔治療や人工臓器などの医療分野をはじめ、多くの応用が期待できる先端技術のひとつとして1980年代に注目を集め、かなり研究開発が進んでいる。原著は1986年の出版だから、扱っている話題はごく初期のナノテクノロジーということになる。
この技術の基礎的な背景や、技術が内蔵するインパクトなど、ドレクスラーの洞察が明快な解説として展開されている。特にに本書では、生物の進化、細胞修復機構、人工知能と創造性、ハイパーテキストなど、科学史全般にわたる話題も散りばめて、ナノテクノロジー技術の位置づけを説明している。人工知能の権威M・ミンスキーが序文を書いている。
しかし、こうした先端技術にとって、15年という時間はきわめて長い。生命科学も情報科学もナノテクノロジー自体も、この15年間に長足の進歩を遂げた。たとえば生命科学では、ヒトゲノムの解読に象徴される画期的な研究成果があった。また情報科学では、インターネットの普及やデジタルコンテンツの一般化に伴う劇的な環境変化があった。そしてナノテクノロジー自体にも大きな進歩があった。
翻訳書は1992年の出版である。2001年になって2刷が出たということは、それだけナノテクノロジーに対する一般読者の関心が高まったこと、そして関連分野をわかりやすく解説した良い本が少ないことを意味するのであろう。(有澤 誠)