きわめてまっとうな主張
★★★★☆
「病人の気持を理解していない」という批評が多くてびっくり。うつ病を患った個人的な体験から言うと、「心の病」について、現代の医療は様々な治療を施してくれるけれども、医師にすべて丸投げで、「こうなったのは周りのせい」と患者が思った状態のままでは、病気は絶対よくなりません。著者は至極まっとうな主張を述べていると思います。
強く共感した
★★★★★
著者は精神科医。心の傷を武器に自己を被害者として楽をして生きようという人が目立ってきた感がある中、日頃の診療などで感じている現代の心の病の問題や一部の?エセ被害者の問題の矛盾点・疑問点を鋭く指摘している痛快の一冊。
著者は良識を持った医師である印象を持った。
朝青龍問題からセクハラ、医療訴訟と内容は広範に亘り、しかも専門用語が少なく、かつ書き振りが平易で読み物としても優れている。
本書でとりあげている「それでもボクはやってない」(痴漢冤罪)や「でっちあげ」(PTSDの問題)は既に読んでいた(観ていた)ため、その時に自分の感じた疑問点や矛盾点を著者が鋭く指摘していた点には強く共感した。
また、ナースキャップが消えた問題や看護婦を看護師と言い換える風潮に違和感を感じた点も頷ける。
後半部分(第7章精神力を鍛えよう)にはストレスの多い現代社会を上手に生き抜いていく方法が平易に示されていため、参考になった。
誰もが感じているが社会風潮という壁があって言いにくい「のさばるエセ被害者」に対し一石を投じた点高く評価したい。
身近にこのような人がいる方には特に強くお薦めしたい。
主張はわかるが、意図しない批判にさらされそう
★★☆☆☆
現役の精神科医が、昨今の朝青龍騒動、増加する心の病、セクハラ、医療訴訟などを例に出し、安易に「心の傷」を主張して被害者利益を得ることがまかり通る現代に警鐘を鳴らし、精神力を鍛えましょう、と主張する本です。
これらに共通するのが、心の傷を受けたことの検証手段が被害者本人の供述以外に無いことと、行き過ぎた人権運動によって、被害者の声が無批判に受け入れられてしまうこと。この実態を著者は「被害者帝国主義」といって糾弾します。
導入部と結論には共感できるのですが、果たしてセクハラや医療訴訟の問題まで手を広げる必要があったかは疑問。ここに触れるがために、フェミニストや人権派を自称する人々からの、それこそ本質を見ない批判にさらされそうです。
現代社会のひっかかりが解けた感じ
★★★★★
最近、自己主張の強い人がふえたと感じることが多くなった。一人一人が考え・意見を言える場面がふえ、何となく「言ったもん勝ち」の風潮が強まり、"超民主的"とでもいうべき事態が多くなってきたように思う。著者の視点はそんな風潮から見れば、かなり危険性を伴っているかもしれないが、現代社会の構図を非常によく捕まえているように感じられた。既に投稿された本書に関するブックレビュー評価が、大きく分かれていることからも、とてもデリケートでビミョーな部分を抉り出しており、「被害者帝国主義」「『傷ついた』の万能性」といった表現は、読み手の中にはショックを受ける人もいるかもしれない。しかし一方で、ここに書かれている状態を知らず知らずのうちに許容している社会システムにも、冷静な目を向けるべきではないかと思う。(ブックレビューでは)賛否両論が渦巻く本書だが、それだけのインパクトを与える内容が書かれている証左だと評価したい。
根性主義の精神医
★☆☆☆☆
著者は受験生時代、英単語を覚えるのに、辞書のAから順々に覚えていったとのこと。
普通だったら、単語帳で効率よく覚えるだろう。
そこを辞書でAから順に覚えるので、誰も知らない難しい単語を知っている割には、辞書の最後の方の単語は何も知らないと豪語する。
他にも過労死した学生時代の同級生の持ち上げ方などを読むにつけ、著者が最も価値をおいているのは、「根性」とか「努力」とか、その類のものであることが分かる。
そのような根性主義者が、「私は傷ついた」とか言ってくる患者さんとソリが合わないのは、ごく自然のことだ。根性主義者は根性で乗り越えようとするので、立場が逆なのである。
しかし、そのソリの合わなさは著者の根性主義に由来すること、つまり、著者個人の問題なので、果たして「被害者帝国主義」と一般化できるのだろうか、という疑問がつきまとう。
著者の主張は「傷ついた、傷ついた」と騒ぎ続ける奴はウゼぇんだ!、この一言に尽きると思うのだが、「被害者帝国主義」などという汎用的な言葉を安易に用いるので、傷つくこと自体、また被害を主張すること自体を良しとしないところにまで射程が及んでしまう。そしてそれは不健全だ。
私が本書で忘れられないのは、強姦された女性についての「症例」である。
診察を重ねたある回の診察で、突然「もう忘れなよ」と患者に言ってのける。
私は男性だが、強姦された女性に「忘れなよ」などと言えるほど無神経ではないし(いくら良好な関係を築いたとしても)、あわれみの気持ちも持ち合わせている。
だから、専門家としての著者の姿勢には、ただ唖然とするほかない。
このような「症例」を得々と書いてしまえるのも、私には理解できない。
この本の読者想定層は根性主義者、努力至上主義者で、こういう方々であれば本書に共感できるかも知れない。
一方で、そうではない人は、著者とは価値観が全く異なるので、自身の価値観のみに基づいて思うところを書き連ねた本書には大きな違和感が残るだけだろう。英単語の暗記の仕方を工夫する人には、お勧めできない。
その違和感の中でも最大のものは、精神科医がこんなこと書いていいの?というものであり、これは本書出版当時にいくつかのメディアがオブラートに包んで書いたことである。