村治佳織の身上はけれん味のない爽やかさに尽きるといってもいい。デビュー10周年を記念して自ら選曲にあたったこのベストアルバムでも、壮大なスケール感や強烈な自己主張こそないものの、折り目正しく清潔感の漂う演奏が披露されている。第1曲はパガニーニが無伴奏ヴァイオリンのために書いた「カプリスNo.24」。ギター用に編曲されたこの難曲を、村治はなんら気負うことなく、丹念に、けなげに弾いていく。パガニーニは悪魔に魂を売り、それと引き換えに人間ばなれした超絶技巧を手に入れたと噂されたヴァイオリニスト/作曲家だが、村治には悪魔ではなく天使がついているのだろう。
派手な演奏効果を狙った曲よりも、すっきりとしたまとまりのよい曲が彼女には合う。ミディアム・テンポできびきびとしたD・スカルラッティの「ソナタK.1」、ゆったりしたアルペジオに乗せてメロディーを歌わせる「カヴァティーナ」あたりが聴きどころだ。(松本泰樹)