『百一年の傑作集』50篇に作者が自選した自信作で、『不思議の国のアリス』にちなんだ『マッド・ティー・パーティー』の割愛が惜しまれる。
★★★☆☆
本書の作品の中では『首つりアクロバットの冒険』を押す。
長編もいいけど短編もね
★★★★★
◆「ガラスの丸天井付き時計の冒険」
骨董品店の主人オールが店内で撲殺された。
彼は死の間際、犯人を知らせるためか、残された力を振り絞って
はいずり廻り、その両手に、二つの証拠の品を残していたという。
それは、大きな紫水晶と、一つの古い時計だった。
果たして、このダイイング・メッセージが意味するものとは?
容疑者は被害者のポーカー仲間である五人の男に絞られます。
そのうちの一人であるパイクに、被害者を含めた残りの男達が
贈った、誕生祝いのメッセージが、有力な手がかりとなります。
「二十と一年のどんちゃん暮らし」までは「あとまだ、九年
と半分ある」という、意味不明な詩を贈った者がいて……。
本作の解決篇におけるエラリーの解明の手順や段取りは実に鮮やかで、
犯人を名指しするタイミングも含め、ミステリ短篇の教科書といえます。
◆「首つりアクロバットの冒険」
軽わざ興行として名声を博していたアトラス座で、
女曲芸師がロープで首をつられて殺害された。
現場には刺殺、窒息死、撲殺などを可能にする凶器があり、犯人は
なぜ、それらの手っ取り早い殺害方法を採らなかったのか……?
チェスタトン「三つの兇器」を本歌取りした作品。
独特なロープの結び方を糸口にして、謎は解かれます。
犯行手段の隠蔽が謀られたのは、浅ましい動機ゆえでした。
◆「黒の1ペニー切手の冒険」
◆「「双頭の犬の冒険」
◆「七匹の黒猫の冒険」
◆「三人のびっこの男の冒険」
王道を行く傑作短編集
★★★★☆
クィーンは長編だけでなく、短編でもその力量を発揮する。本作は姉妹編の「新冒険」と並んで短編ミステリの王道を行く作品。
「アメリカ旅商人の冒険」は構成が巧みで犯人の意外性が光る力作。「一ペニィ黒切手の冒険」は特定切手の連続盗難を扱って、「ああっ、あの手か」と思わせておいて...。「見えない恋人の冒険」は不可能犯罪風事件を扱った、クィーンとしては珍しい作品。「双頭の犬の冒険」は「バスカヴィール家の犬」の雰囲気を意識したマニア好みの作品。オドロオドロしい雰囲気と真相の落差が心地良い。「ガラスの丸天井付き時計の冒険」は得意のダイイング・メッセージもの。苦闘するクィーン警視を尻目に、「今までに最も簡単に解決した事件」と言い放つエラリーはちょっと大人気ない。「****」を知っている方はエラリーと同じ推理が出来る。本来は傑作「キ印ぞろいのお茶の会の冒険」も入っているのだが、「世界短編傑作集」の方に収録されているので、本版では未収録。
謎解きに情熱を燃やすクィーンの作風が短編に合っているようだ。短編ミステリのお手本とも言える作品を収録した傑作短編集。
ハリー・ポッターの名前はここから?
★★★★★
国名シリーズとX・Y・Zが有名なクイーンですが、短編もいいです。さすがという面白さ。でも一番びっくりしたのはこの中の「七匹の黒猫の冒険」のなかに出てくる犯人が「ハリー・ポッター」だったこと。あの有名シリーズの主人公ってもしかしてここからきているのか???
奇をてらわない奇抜さ
★★★★★
通勤電車の中でも読み終えられる分量の短編が全10編、いずれも冒頭の不思議な犯罪、複数の容疑者そして意外な犯人と、推理小説のエッセンスがコンパクトにまとめられており、用いられるトリックにも無理がないのと同時に十分に独創的。奇をてらった怪奇趣味や複雑な人物造形に力を入れすぎる昨今のミステリに比べると驚くほどシンプルだが、それがかえって味わいぶかい。エラリー・クイーンはそのきら星のような長編で十分すぎるほど有名だが、ミステリのお手本のようなこの短編集も必読の価値あり。