「まだるっこしい」本
★★★★☆
この本に書かれていることは、概ね次のとおり。
(a) IT革命によって、グーテンベルクの印刷技術発明以来ともいえるメディアの大革命が起きつつある。テレビの出現にはうまく対応して発展してきた新聞であるが、今度は本当に危機に直面している。
(b) IT化が進んでいるアメリカや韓国では、インターネットに対応した新聞ビジネスの変革が起きつつある。
(c) 日本でも若者層を中心に新聞を読まない人が相当増えている。日本の場合、これまであまりにもうまくいった成功体験を自己否定することが困難(たとえば、販売店を通じた宅配システムをどうするかという問題。広告収入より販売収入に依存している日本の新聞は部数減は受け入れがたく、ネット移行が困難という問題)であり、ビジネスモデル変革の方向性を定めかねている。
書かれていることは正論であり、読んで損はない本といえる。
ただ、私の場合、次のようにも感じ、少し辟易しました。
(a) この著者はITについての知識が相当乏しい。「インターネットの機能について、くどくど解説されても・・・・。そんなことぐらい知ってます。」と感じる部分がかなりある。
(b) 何度も何度も「若い人は新聞を読まなくなっている。危機だ。」というような記述が出てくる。年寄りのまわりくどい、繰り返しの多い話につきあっているような、まだるっこしい気分になってくる。
(c) アメリカについてはネットサーフィンしただけで記述している。まるで大学生の手抜きレポートを読まされているよう。
(d) 「新聞は今後どうあるべきか」の具体論の部分が少ない。
記者クラブ制度への言及が無かったのは残念
★★★★☆
IT革命によって紙媒体に依存する新聞社危機に陥っていることを指摘した良書ですが、日本では既存マスコミが記者クラブ制度によって情報源をほぼ独占していてアメリカや韓国のようにネットメディアへの移行が急激に進むのには時間がかかると思います。
同書には記者クラブ制度への言及が無かったのは残念です。
新聞業界の将来は?
★★★★☆
現在新聞業界が置かれた状況を踏まえ、将来のビジネスモデルや方向性について明確に言及されており、大変興味深い内容でした。特に日本の新聞業界の特殊性や個別要因も加味して検証がなされており、日本だけでなく海外の業界事情についても分かりやすく書かれています。ただし新聞事業者によるネット新聞事業へのシフトについては、日本特有の個別販売制度や労使関係等の要因から、容易に進まないのではないかと思いました。
IT革命の核心を説いた本
★★★★★
筆者は昔の上司である。emailで連絡をする時は本人ではなく秘書に送って、秘書がそれを印刷し渡していた。完璧なアナログ人間であった。仕事でインターネットを駆使し、途上国のデジタルディバイドの問題を扱っていた自分にとって、この世代の扱いは難しい。下手にIT専門用語を使うと嫌われるので苦労して事業説明をする必要があった。
なのでこの本を読んだ衝撃は大きかった。インターネットの基本から、最新の技術をカバーしている。そして足と、ネットと、紙から「情報」を集め、見事に「知識」に編集して、メディアの将来を予測している。
本書は、「紙対ネット」の話でない。「IT革命」とは本来なんだったのかを解説している。
今度会ったらWikipediaや Skypeの話もしてみようと思う。
新聞業界を経営学的に分析
★★★★☆
新聞離れを題材にした記述の中には、情報技術を活用した新しいニュースの形を予想するものや、ジャーナリズム論・メディア論といったような、社会学的アプローチに終始しているものが多い。
本書では「べき論」だけでなく、具体的な数字を用いて新聞業界の経営的な不安を洗い出し、そこを論の出発点にしている。「カニバリゼーション」など、経営学用語を用いて新聞業界を分析する視点は、この手の書籍にしては非常に斬新で読みやすい。
ただ、過去のビール業界の事例を用いただけで、具体的に新聞業界を維持・発展させるための、経営戦略についての記述が乏しく、残念に思った。
全体としては論調に偏りもなく、好意的な文章である。基礎的な新聞業界の現状を学ぶには、最適な本と言えるのではないだろうか。