オカルト・超常現象・宗教の統一理論
★★★★★
神の正体についての仮説を得てから,世界中で次々と生じる異変と,
世論を誘導して狙い通りに日本社会を変革させる加古川の目的,
そして神の目的・・・と物語は急速に展開していく.
この種の盛りだくさんの小説は得てして消化不良を起こしがちだが,
この作品ではきっちりまとまっていて,感心させる出来栄えに仕上がっている.
物語全般を通じて中核となっているは,加古川という傑出した個性の魅力であろう.
神の意図を読み取る頭脳,大衆を誘導する計算とカリスマ,
自分の野心を達成するためには手段を選ばない非情さなど,ノワールな魅力に満ちている.
これだけのキャラクターをあっさり死なせてしまっているのがちともったいない気もするが,
そういうあっけなさも含めて神の不作為の表現なのか.
神は存在するが,尊敬に値しないという結論もなかなか面白い.
最後に登場するヨブ記の真相が,この長い物語を象徴しているかもしれない.
ある意味リアルなSF。
★★★★★
最近、わくわくさせてくれるリアルなSFに出会えずにいた。かつての小松左京や外国のSFのような。しかし、本当に久々に出会えた気がする。現実と虚構の区別がつかなくなるような感覚を覚える。ある種、危険な作品かもしれない。近未来の日本を舞台にしたこの作品。実におもしろかった。
これは確かに魂の一部と言える
★★★★☆
上巻とは打って変わって事例リストが減り、話が勢いよく流れていきます。
とはいえ、
〇〇では………とか始まると、また長くなるかなぁなんてドキドキすることも。
展開が面白く、また一見単純なところも実は別の原因だったりして、全体を通して盛り上がっているように感じました。
その分ラストは盛り上がりに欠けた印象でしたが、これは(超常現象とか勝手な人間が多かったから)自分が派手な終わりを予想したからなだけで、最後の部分にまとまっていったとみるべきなんでしょう。
なんにせよ
この本を読んで考えることが特にないという人は……
それはそれで一つのミームだと言うかもしれないが、
もうちょっとくらい物事を考えるようにしたほうがいい。
と言えるくらい色々な意味でのネタがあると思う。
上巻耐えた人は下巻も読もう。
読み易さは格段に違うので。
ビーダマの中と外
★★★★★
文庫版上下巻読んでの感想。
読むキッカケは、他の本の検索をしたときに偶然見つけたことだった。
作者の山本弘さんのことは「トンデモ本シリーズ」でファンだったということもあるが、この小説の概要を読んで興味を持ち、すぐに購入した。
そして、期待に応えてくれた。
幼いころ、中に小さな気泡が無数にある濃紺のビーダマを見て、「これはうちゅうであり、この中にちきゅうがあるんじゃないかなぁ」って、真剣に思っていたことがある。じゃあ、それを見ているボクは何?・・・とも。
そんな空想を、大人になった今、壮大な物語として展開してくれた。
“神の存在の有無・意味”を語る部分については、『カラマゾフの兄弟』の「大審問官」を彷彿とさせるし、(表の面の)加古沢と大和田氏の論は、『銀河英雄伝説』のヤン・ウェンリーに諭されているかのようで、好き(^^)
これまで世界中で起こった超常現象や、世間で奇跡・不可思議と思われている事例を、これでもかっ、と長々と提示される部分は退屈に思えることもある。でもそれは、「ちょっと調べれば、これほど頻繁に発生していることで奇跡でもなんでもなく確率の問題だ。ウソの報告も多い。騙されるな。それでも疑義があれば、判断を他人任せにせず自分の頭で考えろ」ということを読者に言いたいがために、作者はクドクドと述べたのだ、と私は素直に解した。
上下巻で正味828ページあるが、山本七平(イザヤ・ベンダサン)の名前が出てきたり、聖書のヨブ記に対する素朴な疑問と回答(手持ちの1950年代訳の聖書を何年ぶりかに開いてしまった)、死後の世界、南京事件、日韓問題など、興味ある小物語も満載で、最後まで飽きなかった。
映画「マトリックス」より明快だし、グレッグ・イーガンの諸作品より読者に優しいこの小説、私のお気に入りです。
主人公の優歌に、あまり好意的にはなれなかった部分がマイナスで「☆=4.5」。四捨五入して☆5つ。
読み応え十分
★★★★★
これまでレビューがなかったのが不思議なくらい.もっと話題になって良いのでは?
ディデイルまでよく書き込まれた力作だと思う.類似のテーマ(ネタばらしになるといけないので,具体的には書きませんが)のSFはいくつかあるが,それらとは視点が異なるのが本書のユニークな点.
途中から突拍子もない展開になり,どのように終わらせるのか心配だったが,良い結末だと思う.インターネット,コンピュータ,人工知能に興味を持つ人にはお勧めの一作である.