文化財的名作、完結
★★★★☆
2回目の読破。一度目は30歳代に、図書館で借りて読みましたが、40代前半の今回は少しづつ買い足して完読しました。
今は3回目の読破!と気負わず、どの巻から読み返しても違和感がないので、漫画の単行本を読み返す感覚で、気まぐれにその時の気分で手に取った巻を読んでいます。
本16巻は、全編中ではクライマックス後であり、義経の奥州落ちや後白河、頼朝など(本作で)勝ち残った人々の後日談的内容であるため星4つとしましたが、16巻全編を通じた本作品が星5つ、まさに文化財ともいえる名作であることは疑いもないでしょう。
特に最終部分にあたる本巻では、ストーリー的盛り上りが少ない分、全編のテーマである栄達や権力を求める人間の虚しさや愚かさ、インテリ臭いイデオロギー的ではなく地から湧き出す祈りにも似た庶民の平和への渇望などが、穏やかな語りの中にも力強く表現されています。
平安末期から、作品が執筆された昭和の終戦後から約10年、そして平成の現代まで、時代を超えて、人間の生き方に警鐘と癒しを与えてくれる作品です。
人生の充実期や絶頂期にいる方、人の上に立とうとしている方にこそ、ぜひ読んでほしいものです。(そういう人は、たぶんこのような本を読む余裕はないのでしょうが・・・。)
槿花一朝の夢。名作、ここに完結・・・・・!
★★★★★
遠い旅の空の下、義経は奥州への道のりの歩みを進めていました。
思い起こせば源氏再興の悲願の下、屋島の戦いこの方から戦塵に塗れ、
旅陣の中に秘策を編み出し、ついに壇ノ浦に平家を追い詰めた
常勝将軍がかつての彼でした・・・・。付き従う7人の股肱の忠臣たち。
主従といった関係性をも超え、人として互いを労わり合う温かな集団でした。
少なくともこれらの人びとに囲まれた九郎義経は幸せだったでしょうね。
追われる身の上とは云え・・・です。
奥州の地に一家を営むものの、ここも義経安住の地ではありません。
ささやかな幸せも長続きはしませんでした。
九郎廷尉源義経は文治5年閏4月末日、後世へ幾多の伝説と賞賛を遺し、
31歳の波乱に富んだ生涯を閉じました。
頼朝をして稀代の大天狗と言わしめた後白河法皇。権力の中枢で
摂関〜平家〜鎌倉と覇権の変遷に関与し、時々に権謀術数を逞しくした人。
この頃にはこの‘大天狗’もそして鎌倉初代将軍頼朝も鬼籍に入ります。
源平争覇の時代も現代も、大廈・廟堂の往時と末路に於ける人びとの
離合集散のありようなどは殆ど変わらないものですね。
この大きな物語は保元・平治の戦乱の頃から幾つもの苦難を乗り越えた
阿部麻鳥夫妻の述懐で締めくくられます。‘いわぬはいうにまさる・・・・’
互いの胸の裡をそして来し方を・・・。美しい吉野の一目千本の桜の下に
駘蕩としながらも、互いを支え至誠を貫いたささやかながらも、
堂々たる人生がありました。
思わず目頭を熱くしてしまいました・・・・・。
丁寧に味わって欲しいくだりです。
昭和25年に吉川先生が筆を起こされた本作。「諸行無常ともののあわれ」を軸に、
格調の筆致で世に名高い場面や人物像のかずかずも吉川先生の手によって
不朽となりました。「何時の時代に於いても変わるものと変わらないものとは?
そして人の世に一番必要なものとは・・・・・・・?」と吉川先生の名文は
語りかけて来ます。それらの問いかけに襟を正して向き合いたいと思います。
この物語を持つことの出来た日本。そしてそこに生まれた日本人のひとりとして。
まさに圧巻!本当に素晴らしい作品でした。
全ての方々にお薦めします。
完結へ
★★★★★
保元・平治の乱から始まり、平氏の隆盛と没落。
源氏の台頭における義経の活躍と転落。
終わることのない権力闘争。
そこには英雄も悪人もない。
人間の業を描き出す圧倒的な筆力。
諸行無常が見事に描き出されています。
全16巻完読記念
★★★★★
たった今,最終巻を読み終わりました。ラストの,麻鳥と蓬の会話に,彼らの息子麻丸のように,目がうるうるしています。
読み始めのときは「何年後に全巻読破するだろうか?」などと思っていましたが,この1月から読み始めて半年で読み終わってしまいました。
あっちの本,こっちの本と読み散らす私の読書パターンからは完全に外れて,一気読みしてしまいました。それほど,この作品は,おもしろい!。この年齢まで,この作品を読まなかったのが悔やまれるほどです。
さて,明日からは「私本太平記」にするか,「三国志」にするか,「宮本武蔵」にするか…。