バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータは弾く者の心を映し出すある種恐ろしい曲である。小手先の技術だけではとても太刀打ちできない難曲中の難曲。テクニックはもとより精神性の高さを求められる。

　ヴァイオリニストとしてある程度自信がつくと録音してみたくなるらしい。それも全６曲を。しかし、満足の行く結果を残せる人はまれである。力んでしまったり、上っ面だけをなぞってしまったり。

　川畠成道は敢えて全曲ではなくパルティータの２番だけに絞った。あの壮大な「シャコンヌ」に全力でぶつかる。

　震えるような感動。音の一つ一つが有機的につながり、シャコンヌという天空の城を築き上げる。少しも冗長になるところがなく、きわめて高い緊張感を維持している。だが、息の詰まるようなことはなく卓越したテクニックに裏づけされた安心感がある。

　この「シャコンヌ」だけを聴くだけでも十分買う値打ちはある。それにしてもこれだけのバッハを弾けるならぜひ、全曲を録れて欲しい。

彼のコンサートにて買い求めた一枚。
握手したぬくもりが忘れられない演奏家である。
誠実で人なっこい川畠氏。
コンサートでは自ずからマイクを握り
曲の合間に弁を振るってくれた。
おかげで客と演奏家が一体となった楽しい一時を過ごせた。
さてシャコンヌであるが、
そんな彼の誠実な人柄が伝わるかのような演奏である。
暖かい太陽のような。
たとえて言うと、けして真夏の太陽ではなく、
冬の日の縁側で窓越しに浴びる心地よい日向ぼっこのような…。
落ち込んだときにそっと隣に佇んでくれるかのような感じかな。
押し付けがましくない演奏です。

川畠成道のCDは全部持っている。そして多数、彼のコンサートにも行っている。その私が今回のこのCDを聴き、CDであるのに関わらず、息を殺して聴きいってしまった。バッハのパルティータの冒頭部分ではこの曲を弾きあげるという気迫を感じ、そして彼らしい美しい音の響き。カラヤンも録音につかったという教会での音響効果も楽しめる。そしてクーラント、サラバンドへと続くうちに緊張からも心がときほぐれていつの間にか曲に没頭し、音の美しさ、旋律の美しさに酔いしれる事ができるだろう。今までナタン・ミルシティンのパルティータが最高と思っていたが、それを超えた演奏だと思う。また、バルトークの無伴奏も収録されているが、難解と言われているバルトークさえ、今回の川畠氏の演奏をきけば、素直に心に入ってくるだろう。
それほど、彼はバッハとバルトークを研究し、彼等を理解し愛した事が演奏に現れている。白血病により、異国で逆境にあいながら果ててしまったバルトーク。その人生を憶いながら聴くと、なおさら心にしみるのである。

これはヴァイオリンだけでピアノの伴奏はありません。素晴らしい音色と暖かく心のこもった演奏は力強く優しく、しかも崇高な想いを抱かせてくれます。このＣＤの録音に寄せて、川畠さんは私が心から愛してやまない作品を心の底から表現してみたつもりですとコメントされてます。　確かに繰り返し観賞してみると、其の言葉の意味が心の奥まで伝わる思いが致します。クラシックを好まれるかたは勿論ですが、そうでない方も優しく暖かい気持ちになれるばかりか、勇気を持って未来を歩みだせるようにも思えるＣＤです。このＣＤをお求めになられる方は、何度も、何度も観賞されて楽しまれる事をお勧めいたします