哀愁のトリステ
価格: ¥3,045
もとよりタイトル曲はそれほど広く知られていないし、クライスラーの小曲集から選んだ「ウィーン小行進曲」も、「愛の喜び」や「美しきロスマリン」のような抜群のポピュラリティーは持っていない。ブラームスの「ハンガリー舞曲」にしても、だれもが知っている第1番や第5番ではなく、第2番と第4番が演奏されている。ひとことでいえば、渋い選曲のアルバムである。もちろん、それだからといって親しみにくい曲が並んでいるわけではない。耳にする回数こそ通俗的名曲に譲るものの、どれもヴァイオリンの魅力をよく伝えるものばかりだ。そして、華やかではないがどこかセンチメンタルな響きのする曲が多く選ばれており、飾り気のない川畠成道の音楽性によくマッチしている。
川畠のヴァイオリンは、中音域から低音域にかけての少し鼻にかかったような音色、高音域の引き締まった音色が特徴だ。美音で心ゆくまで歌い上げたり超絶技巧をこれでもかと見せつけるタイプではなく、どちらかといえば素朴で実直な表現が基本にある演奏家のように思われる。小細工をせず、素直に弾いた「ロンドンデリー」などにはすがすがしい魅力が感じられた。ただし、一面ではどんどん感情を表に出した表現をしていこうという方向性もあるようだ。「3つのオレンジへの恋」のマーチや「ウィーン小行進曲」などでの、気迫を前面に出した演奏はその一例。まだあら削りな面がなきにしもあらずだが、こうしたホットな演奏に自分の行くべき道を求めているのかもしれない。(松本泰樹)