武市半平太と岡田以蔵
★★★★★
本年度の大河ドラマ『龍馬伝』をこれまで観てきて、土佐勤王党における両者の関係とそれぞれの運命が気になったので一読。ネタバレになるので詳述はしないが、「人斬り以蔵」も含め全編正に巻を措く能わざる面白さであった。
「緒方塾でまなんだ蘭学はそうではなかった。どんな凡庸なものでも、基礎さえできれば、あとは独習でも学べる「方法」が明示されている学問だった。」
「ただ保存するだけで、六軒の大砲方の家が、家禄を食って子孫をふやしてきたのである。」
「大将の器量とは一座の者の心を読んで、そのふんい気の中で中心になれる器をいう。」
「さむらいとは、自分の命をモトデに名を売る稼業じゃ。名さえ売れれば、命のモトデがたとえ無うなっても、存分にそろばんが合う。」
村田蔵六(大村益次郎)や古田織部正、塙団右衛門直之、後藤又兵衛基次など、歴史に残る人物を描いた諸編も素晴らしいが、個人的には、無名だが数奇な巡り合わせに満ちた人物(所郁太郎)を描いた「美濃浪人」と封建制を笑い飛ばすかのような「おお、大砲」がオキニ。さすが司馬遼。
「おお、大砲」
★★★★☆
表題作「人斬り以蔵」の暗い情熱も不気味でいいですが、大阪夏の陣以来伝承された大砲を使うという、ほとんどコメディのような、それでいて真剣な「おお、大砲」を最も楽しんだ「鬼謀の人」も面白いが、これの長編版「花神」を既に読んでいたので印象薄。「太夫殿坂」は、当時の大阪の庶民の暮らしが見えるという点で面白い。
「おお、大砲」
★★★★☆
表題作「人斬り以蔵」の暗い情熱も不気味でいいですが、大阪夏の陣以来伝承された大砲を使うという、ほとんどコメディのような、それでいて真剣な「おお、大砲」を最も楽しんだ「鬼謀の人」も面白いが、これの長編版「花神」を既に読んでいたので印象薄。「太夫殿坂」は、当時の大阪の庶民の暮らしが見えるという点で面白い。
司馬遼太郎的短編の入門編
★★★★★
「司馬遼太郎」というと、馴染みのない人なら(馴染みのない人でも、か)「大河小説」とすぐ思い浮ぶはず、と私などは推量するわけですが、私のようにメチャクチャ馴染んでしまっている人間にしてみれば、大河小説はもとより「司馬遼太郎的短編」というのがその読書生活に欠くべからざるファクターになってしまっているわけです。
「司馬遼太郎的短編」の魅力を簡潔に語ることはなかなかの難事ですが、あえてその一つを、誤解をおそれずざっくりと言ってしまうなら、「ヴァリエーション」、ということになるでしょうか。あるときは人物を点景として怜悧に歴史を観察し、またあるときは人物のエキセントリックな内面の遍歴を意地悪くなぞる。時代相に巻き込まれてゆく人物の一代記を描いたかと思えば、一転して平和な生活相から弾き出される人間の悲喜劇に筆を及ぼす。大河小説ではその舞台の大きさゆえにかすんでしまう物語の数々を、短編という小舞台に移し変え、さらに短切な文章で精彩を与える。そうして結晶したこれらの作品群を読むにつけ、私はただただ耽溺する想いに駆られるのです。「司馬遼太郎」に少しでも関心がある人には是非短編もススメたい!
そこで! 数ある司馬先生の短編集の中でも私がお勧めするのがこの『人斬り以蔵』です。個人的には、この本が前記した「ヴァリエーション」を最も感じさせてくれる、味わえるつくりになっているように思うからです。異色作を集めた『果心居士の幻術』も捨てがたいのですが、「司馬遼太郎」に馴染みのない方にはこちらの方が、いくらか、とっつきやすいのではないでしょうか。……まぁ、老婆心ですけど。
全ての「ひと」が歴史を作っていく
★★★☆☆
人を突き動かし、歴史を作り上げるのは、感情である。
時には思想や正義がその感情を揺り動かし、すさまじいスピードで歴史が動いていく。
そんな世の中でもひとは愛し戦い卑屈にもなり、短い人生を生きぬいていく。
そんな変化の時代の、人々の人生の切片を切り取り、情感豊かに書き上げた秀作である。
歴史の大きな流れの中では自分はちっぽけな存在。
でも感情を持ち、あがきながら一所懸命生きてるんだぞ。
そんなことを改めて感じたのでした。