キンタナ・ロー州の海にまつわる都市伝説集
★★★★☆
1970-80年頃に筆者が、メキシコのユカタン半島にあるキンタナ・ロー
州での体験をつづったエッセイです。
筆者が現地で聞いた、夢なのか現実なのか定かでない都市伝説のようの
ような幻想的な話を、自分自身を語り部としてつづっています。
海にまつわる不思議体験に満ちた本ですが、SFやFT的な要素はほとんど
ありません。面白い本ではあります。
この本の筆者は、海(自然)とマヤ文明をこよなく愛しています。開発
に伴い、海(自然)もマヤ文明も失われていくことに対しての悲しみとあ
きらめがない交ぜになった挽歌のようなこの本です。
ユカタン半島の原風景と、マヤ文化をかいま見ることもできます。
「キンタナ・ロー州民話(現代版)」といった趣もある内容です。
現代文学の香りがする連作短編集
★★★★☆
メキシコのユカタン半島に位置するキンタナ・ローを舞台に、そこに長期滞在している老心理学者が出会う人物から聞いたちょっと不思議な物語である。「リリオスの浜に流れ着いた者」「水上スキーで永遠をめざした若者」「デッド・リーフの彼方」の3編。一種のメタ小説の体裁をとって、ティプトリー独自のテイストをつけている。そこには海の神秘と自然を蹂躙する外部の人間、現代文明と伝説が描かれている。ティプトリーの簡潔な語り口は、ちょうどキー・ウェスト時代のヘミングウェイの短編を思わせる、そんな印象。個人的には「デッド・リーフの彼方」が一番完成度が高いと感じたが、どれも読ませるなかなかの出来。
異質なる「未知なもの」
★★★★☆
今まで読んだ中では、一番おとなしいジェイムズ・ティプトリー・Jrでした。彼(?)のSFのイメージを持つと肩透かしを食らうかもしれませんが、これはこの本の「話中話」のスタイルがさせているのかもしれません。
でも、作品に登場する「未知なる物」の異質さはリアル。SFのガジェットが外れたことで、著者の意図がよりわかりやすく伝わります。
改めて、今まで読んだ著書を読み返したくなる一冊でした。FTかと思ったのですが、自分では違うような気がするので星4つですが、小説は文句なしに面白いです。
途方に暮れたくなるフワフワ感。
★★★☆☆
タイトルは長いけど、ページ数は少なく活字は大きく、さーっと読めます。
メキシコはユカタン半島東海岸のキンタナ・ローを舞台に、
グリンゴと呼ばれ蔑まれても、居座っているアメリカ人の主人公が聞きかじった不思議な話が三つ。
いかにもリゾート地らしい漂うような時間の流れ方に、
海中で幻惑されてもいいような気になってきます。
幽霊ものというよりは、確かに幻想的。
人間は自然に復讐されて呵るべきだという作者の意思が感じられたりして、
少しぞっとします。
でも実は、作者の経歴、死の理由などの方が衝撃的でした・・・。
不思議な味わいのする3つの物語
★★★★☆
1986年世界幻想文学大賞アンソロジー部門の受賞作。3つの短編から構成。
舞台はメキシコ、ユカタン半島にあるキンタナ・ローという実在の地。これを読むまで知りませんでしたが、キンタナ・ローは観光地として有名らしく、googleで検索すると美しい砂浜の写真がいくつも見つかります。
物語はいずれも海を舞台にした不思議なものですが、キンタナ・ローの風景写真を見ると、そんなことが起きてもおかしくはないような気がしてきます。
それにしてもティプトリーは、(勿論翻訳者の腕もあるでしょうけど、)文章が巧いですね。