作者の選択は、「冴えた」(neat)という表現で形容するには重い
★★★☆☆
15歳の少女コーディー・キャスは誕生日祝いに両親から小型の宇宙船を贈られる。冒険心あふれるコーディーは、それを長距離用に改造して遠大な旅に出てしまう。
宇宙空間で漂流中のメッセージ・パイプを回収したことから、それに付着していた微小なエイリアンとの間に奇妙な関係を築いていく…。
以前、ハヤカワSF文庫から『たったひとつの冴えたやりかた』としてまとめて出版された3編のうち、表題作を改訳して切り出したものです。
物語は健気で無邪気な少女コーディーの宇宙冒険譚として始まります。まだ人生のとば口にも立ったとはいえない彼女の、恐れ知らずで猪突猛進の行動には危うさを感じつつ、同時にまた、若さのもつほほえましい青さを妬ましく思わないでもありません。
しかしやがて彼女が宇宙空間で孤独なファーストコンタクトを経験し、その邂逅をある形で終息させなければならなくなるという展開を見せるに至り、私の中には大きな疑念も生まれてくるのです。
彼女のその決断が「たったひとつの冴えたやりかた」なのか、それとも彼女の幼さから来るつたなく、拙速のそしりを免れないものなのか。
実は読了後にもまだ私は決めかねているところがあります。彼女の選択を「冴えた」という表現、もしくは原題にある「neat」という英語の語感とぴったりくるだけのものとして捉えきれない自分がいるのです。
翻って思うのは、作者ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの人生最後の決断のこと。
訳者あとがきに記されているとおり、彼女のその決断はSF業界と多くのSFファンに大変大きな衝撃を与えました。そのショッキングな選択も彼女自身は「たったひとつの冴えたやりかた」とみなしていたのではないか。しかしそこにもまた私は、「冴えた」という言葉で形容するにはどこかしっくりとこない、胃の腑にすとんと落ちてくれない居心地の悪さを感じるのです。
改訳版
★★★★★
▽あらすじ
誕生日に両親から小型宇宙船をもらった十六歳の少女コーティ。
彼女は宇宙船を遠距離用に改造し、冒険の旅に出かける。
その途上、彼女は寄生体のエイリアンであるシロベーンと出逢った。
自分の脳に寄生したシロベーンに対し、物怖じせず、友好を深めていくコーティ。
しかし、シロベーンの恐るべき生態が発覚したことで、彼女は究極の決断を迫られる……。
▽感想
作品のなかで、コーティの物語は図書館に収められた記録という位置づけ。
それを借りて読むエイリアンの挿話がその前後に
配され、一種の枠物語的構成が採られています。
また、コーティの物語の後半は、事後に入手されたコーティのメッセージ・パイプを
大人たちが聞くという形式になっており、二重の意味で現実から隔てられています。
そのような作品構造が、「感動的な美談」に対し、
相対化・客観化の視点をもたらしているといえます。
たったひとつの冴えてないやりかた
★★★★☆
20年ぶりに改訳されると言うことで購入したが、少し残念な点がひとつ。
3話構成でないと、司書とこの話を読んでレポートを作成する学生カップルの話が完結しないので、ぜひ3話まで改訳して欲しかったと思う。
また、そうすることによって、記録の中から構成された物語(この短編集ではメッセージパイプに吹き込まれた本人達の記録かインタビューから構成した物語という形式)を少し離れた視点で見るという面白さが感じられなくなっていると思う。
ちなみに表題作は、20年前読んだときは主人公が悲劇的な結末に向かわなければいけない運命でも、勇気と友情をもって進む姿に感動した覚えがある。
そういう部分は時代を超えて読む継がれて欲しいので今回の改訳は非常に喜ばしいのですが、今回の改訳版では尻切れトンボで終わっているので、購入した人たちががっかりするのではないかと思う。
そういう意味で五つ星ではなく四つ星にさせていただきました。
たったひとつの冴えたやりかた
★★★★★
どこかで聞いたことがあるタイトルだなと思ったのと、
表紙がすごくきれいだったので何気なく手に取りました。
物語の舞台は宇宙です。専門的な知識がないので、
出てくる見慣れない単語に最初はすこしとまどいましたが、
読み進めるうちに気にならなくなりました。
少女が異星人と出会い、友情をはぐくみ、一緒に冒険する。
前半はファンタジーというか、少女の冒険物語です。
後半は・・・。
いい意味で期待を裏切られました。
読み終わった後、しばらくぼーっとしてしまいました。
たくさんの人に読んでもらいたい小説です。
でも、覚悟して読んでください。
そして、ハンカチを忘れずに。
あとがきでこの本はSFの名作なのだと知りました。
SFという言葉にはどうしても拒否反応を持ってしまっていたのですが、
こんな物語もあるのだと思って少し興味がわきました。
文章もすごく読みやすいので、海外作品は苦手という方にもおすすめです。
もうひとつの冴えたやりかた
★★★☆☆
すでに文庫として刊行されている「たったひとつの」からスピンアウト、
改訳されて出されたソフトカバーの本。
新書サイズでとても軽い。上質な本といった印象。
短編三つのうちの最初の物語を抽出して一冊にしたものなので、
あっという間に読みきることができる。
行間もゆったりしているので、電車で読むのに最適。
それにしても、なぜこれなんだろうか? という気がしないでもない。
が、文庫版の少女漫画炸裂の表紙と挿絵が恥ずかしい人には
コッチのほうが絶対いいし、人にも勧めやすいボリュームと
センスなんじゃないかと思った。
肝心の改訳は、同じ翻訳者の手によるもので、
さすがとしか言いようのないスムーズな言葉運びであるが、
旧約版でちょっと気になった時代を感じさせる言い回しが、
全てきれいに取り除かれ、洗練度が増している。
旧版(というか文庫版)で満足している人には別段どうということはない
と思うが、ティプトリーに興味を持っている新しい読者には大プッシュしたい。
最初に読んでほしい一冊。
それにしても、コーティーとシルのやり取りは瑞々しさに満ちている。
いいなぁー。