筆者は、改革開放の進展とイデオロギーの退潮の中で、最近の中国社会に伝統回帰の動きが見られることを指摘しており、地方農村における宗族支配の復活などに注目しています。このように、歴史的・文化的なパースペクティブを意識しながら今日的状況が論じられており、分析の内容に深みが加わっています。長い歴史を誇る中国社会が、果たして共産主義運動によって如何ほどの影響を受けているのか、思わず考えさせられてしまいます。
他方、限られた紙数の中、今の中国が抱える主な内政問題を全て取り扱わんがばかりの心意気であり、個々の問題についての敷衍が若干手薄になっているように感じました。次作以下、是非個別問題(特に宗族問題や環境問題など)についての各論に取り組んで頂くことを期待したいと思います。