絶望工場の原因は我々消費者だが、同時に仕事を奪われる我々製造業。
★★★★★
「チャイナ価格/競争有利性の真のコスト」という原題を改竄・捏造する日経の劣化を地で行く本、、、。って、内容のレビューをしないとね。
内容は、米国人の女性ジャーナリストが綿密な取材を繰り返し、チャイナの工場の悲惨な実情、解決への複雑なジレンマを分析した非常に優れたものと言える。
都会に出てきて働く数億人の農民は残業して働きたい。工場も残業させて製造したい。しかし米国式CSRはそれを許さず監査人を派遣する。ために工場は帳簿を偽装する。
安いチャイナ価格を求める欧米企業が、コンプライアンス監査する矛盾。工場側は労働条件や公害を無視しないとチャイナ価格を達成できない。
しかし核心は後半にある。労働条件に配慮する経営者が出てきたことや、一人っ子の2世代目出稼ぎ人はより良い条件を求めてどんどん離職し、最低賃金の引き上げもあることである。
本書では時期的に触れられていないが、おそらく今は逆に不況で億単位で失業者が出る可能性もある。あ、だから日本で1000万人の移民を引き受けるんですね。さすがです。
ジャーナリズムに必要な視点
★★★★★
中国の製品がなぜ安いのか。単純に人件費や土地が安いからというのであれば何の問題もない。だが、実態は違法な労働によって実現されている。その責任の大半は中国自身にあるのだが、低価格と高品質を同時に求める先進国にも問題がある。この二つは両立しにくいからだ。無理に両立させると、従業員のモラルが低下し、毒入り餃子みたいなことが起こる。先進国にも責任はあるのだ。危険な製品ができないまでも、中国人の労働を搾取することで先進国の生活が成り立っているのであれば、それは見直さなければならない。残念ながら、日本の企業で、中国の労働環境に目を向ける企業は少ないようだ。ユニクロはかなりの製品を中国に依存しており、ソーシャルコンプライアンスにも気を遣っていることはサイトに書いてあるが、実際にどのような監査を行い、どのような結果になっているかは明らかにしていない。しまむらにいたってはそのような情報すらない。日本の大企業ではCSRなどと騒いでいるけれど、海外で何をやっているかまで明らかにしている企業はほとんどない。フェア・トレードという考え方があるけれど、われわれ先進国の消費者は、安ければそれでいいんだという考え方を捨て、なぜ安いのかを深く考える必要がある。そのことを教えてくれる本であり、日本のジャーナリズムにない視点を提供してくれる秀作である。
中国貧困絶望工場
★★★★☆
貧困が騒がれる現在、中国では新聞にも載らない貧困の構造が存在している。
国の首都である北京周辺の情報は喚起されるが、世界の生産現場については暗黙の了解として誰も記事にしていなかった。
今回この本によって世界の製品生産を担う工場の現状と現場で働く中国労働者の貧困のスパイラルが明らかになる。
海を隔てた中国内陸での悲惨な労働事情を理解するには最適な書である。
変わらない現実
★★★★☆
自分がこどもの頃、日本の企業が東南アジアで「安い労働力を便利に使いまくる」現実が問題視されたことがあった。当時まだブランドとして通用したMADE IN JAPANなるタームの内幕暴露、的なゴシップ調はこどもながらにうさんくさく感じられたものだが、自分らの文化生活の裏に何があるか、という目はやはり、こういう現実を知ることで培われるものだったと思う。
そしてなにも変わっていない。東南アジアが中国になって、規模が全世界規模になっているだけだ。
これをして、資本主義の根本問題とか騒ぐ気は少なくともわたしにはないが、たとえばむかし食卓で「お百姓さんに感謝しなさい」と言われながら食べた食べ物と同じように、「安くしてくれてありがとう」と感謝しながら中国の工場へと思いを馳せることができない世の中の仕組みはやはり世知辛く感じる。
似たような構造は日本にもまだまだあるもので、原発の「現場作業員」の話など、IT世界のど真ん中であるインターネット上ではほとんどタブーであるらしい。こういう構造を目の当たりにするたびに、必要なのは資本主義vs共産主義なんて無味乾燥な「議論」ではなく、文化生活の末端にいる人たちのことをとにかく「意識」していくことだろうという思いを強くする。
相手が中国だということで、この良書が「資本vs共産空回り議論」のネタへと堕してしまわないことを、ただただ願っている。
邦題は内容にミスマッチ
★★★★☆
タイトルを見ると一見中国版女工哀史のようだが実はそうではない。オリジナルの「China price」の方がよっぽどしっくりくる。China priceを提供する中国側と、China priceを維持したい先進国側の攻防が興味深い。劣悪な条件でChina priceを維持するため、一方的に労働力を提供されるだけの立場だった人間が、ある日労働者の権利に目覚め同胞の為に立ち上がる。或いは極貧の労働者から、徐々にステップアップし、ホワイトカラーへと転進する。
タイトルだけ見ると、いかにも中国の悲惨な労働環境だけがクローズアップされているように見えるが、私はむしろ後半に描かれている、中国でのポジティブな変化の方がこれからのChina Priceへのインパクトとして重要なのではないかと感じた。