障害と孤独−自己実現と成長−緋色の戦士をめざして
★★★★★
小学校のクリスマスにもらった本だった。主人公は自分と同い年ぐらいだったのに、未来にとても怯えていた。片手で槍の練習をしていた。自分の猟犬を手に入れるために狩りに出ていた。獲物の白鳥がシチューになるいうので驚いた記憶がある。まだ、歴史も知らず、青銅の刃と鉄の刃の区別が付かぬまま、異国の草原と羊飼い達の景色を心に思い描いた。
そう、思春期の入り口に差し掛かっていた当時、障害を持つ少年の孤独と成長が、違和感無く自分の心に入ってきた。成人への儀式、イニシエーーションである狼狩りとその失敗、チャンスと戦士としての再生、複雑なテーマだったので、何度も何度も読み直さなければならなかった。大学生になっても社会人になっても、いつも本棚にあり、読み返し続けている。
中学生では遅い。小学生からでも読める本である。未来への予感に怯え、自分に自信を持ちたいと願い、目標となる大人との交流・後ろ盾を必要とし、青年期を共にする親友を欲し、異性を意識し、一つ一つの試練と共に、子ども時代とそれに附属する人間関係に別れを告げ、戦士として成長していく主人公ドレム。時空を超えて彼の世界に触れてこそ、読書の世界は広がる。
作者、ローズマリ・サトクリフが足の不自由な女性でありながら、森林と羊の匂いにむせるような濃厚な自然を背景に、躍動感あふれる物語を書き上げたことに今だに驚嘆する。その孤独と葛藤は主人公に投影され、万人の胸を打つ自己実現への過程を、ベルティンの祭りの炎と共に照らし出している。ある種、読書療法的にも使える内容の濃い本である。独特の雰囲気を演出する挿絵と共に、大人も子どもも味わって欲しい。ケルトの薫り高い歴史文学の傑作である。