まさに狂気。だが魅せられる
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幼少の頃から絵の才能にあふれ,東京美術学校(現東京芸大)に入学しながら,数ヶ月で退学し,絵を売れば十分な生活ができたであろうが,それをせず,50歳で奄美大島へ渡り,大島紬工場の職工として最低賃金以下の収入で極貧の生活をしながら絵を描き続け,画壇では見いだされることなく島で孤独に死んだ鬼才の画家の評伝。
知人の医師は田中を「あの人が,医師になっていたら,おそらく名医になっていたでしょう。あれほどの才能を持ち,あれほど勉強する人を私は知らない」(p116)と評し,本人はある人に宛てた手紙の中で「私の絵の最終決定版の絵が(中略)なんと批評されても満足なのです。それは見せる為にかいたのでなく,私の良心を納得させる為にやったのですから」(p176)という。単に口で言うのは容易いが,全てを投げ打ってそれを成し遂げる迫力が本書から強く伝わる。
奄美の田中一村美術館で実際にその絵を見た時,絵に全くの素人の私でも圧倒された。実物をご覧になることをぜひお勧めする。
ただ「日本のゴーギャン」というタイトルは,よくテレビなどで日本人を紹介する時に使われる「和製○○」みたいでどうもしっくりこない。