実力、人気ともに抜群だった、天才といってもよいカエサル&オクタヴィアヌスに比べたら、どうしても一歩劣ると言わざるを得ない皇帝たちですが、彼らの人間的な側面に、天才ではない僕などはむしろ共感できました。
以下、本書に登場する皇帝についてタイトルをつけてみました。
「家出皇帝・ティベリウスの遠隔統治」~皇帝はいかにして人嫌いになり、カプリ島から広大なローマ帝国を平和のうちに支配したのか。
人気★ 実力★★★★ 引きこもり度★★★★★
「みんなのマスコット・カリグラの大盤振る舞い」~若きタレント皇帝はいかにして国庫を食いつぶしたか
人気★★★★(最初のみ) 実力★ 金遣い★★★★★
「いじめられっこ皇帝・クラウディウスの善政」~いじめられっこで歴史オタクの皇帝の意外な実力とカカア天下の実際
人気★ 実力★★★ カカア天下度★★★★★
「小心者芸術家皇帝・ネロの逆ギレ」~歌手になりたかった男の情緒不安定がもたらした過剰反応の数々
人気★★(他国の評価よし) 実力★★ 歌唱力 ?
広大な帝国をひとりの人間が支配するということの大変さ。人気・政治力ともに最高レベルが求められるのが政治家というものなのでしょう。
政治家や経営者を目指す人は必読。米大統領など現代の政治家と比べながら読むのも興味深いですね。単に上に立つ人の苦労を知るための人間ドラマとしても楽しめます。シリーズ中では地味ながらおすすめの一冊。
彼らが本当は何をしたのか、多少作者の主観はあるにしろ、この本は分かりやすく答えてくれました。
どのような状況で、何をしたのかも知らなかった、名前だけの「暴君」。紙の上の「悪い人」だった皇帝たちが、何を考え、どのように生きたのか、この本を読むと分かります。
そしてちょっとだけ、読む前よりも彼らに好意的になっているかもしれません…。
目だった業績がないといわれ、むしろ悪く描かれることが少なくないティベリウスとクラウディウス、後世にその性癖や行動がスキャンダラスで畸形的に描かれるカリグラとネロ、本書で著者はこれらの皇帝たちの再評価を試みている。特にティベリウスについては晩年のカプリ島隠棲後の悪評は根拠がないと喝破し、カエサル、アウグストゥスの後を継ぎ、帝国の礎を築き覇権を軌道に乗せたという点でその内政・軍事・外交といった面での手腕を高く評価する。
著者の文章は、彼らの治世を様様な要素、政策とその結果、影響、外部環境、とひとつひとつ事細かに解きほぐしていく。後世の偏見や一面的な見方に惑わされず、複眼的な視点を忘れないその姿勢、論理的な筆の運びは見事としかいいようがない。史書を読み解き、推論し、平明な言葉でつづっていく。決して筆を急がず、かといって単調な一本調子でもない文章は読みにくさとも無縁。
この巻においても著者は、後の五賢帝時代の歴史家タキトゥスを高く評価し、彼の著作から引用するところが少なくないのだが、タキトゥスと見解を異にする部分などはきちんとその論拠を明らかにしていく。千有余年の時を超えての二人の対話を見ているよう。全巻にわたってこうした知的冒険のワクワク感に満ちており、飽きさせない。見事。