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ローマ人の物語 (6) パクス・ロマーナ

価格: ¥2,835
カテゴリ: 大型本
ブランド: 新潮社
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冷徹に、真摯に現実を直視した「偉大なる偽善者」 ★★★★★
 もう10年以上前に買った本なのだが、この度の政権交代を見てふと思い立ち、丹念に読み返してみた。

 塩野七生氏の諸作品の中で、私にとっては「マキャベリ語録」とこの「パクス・ロマーナ」が双璧として座右の書になっている。

 塩野氏が以前から鋭く批判していることで、私も全面的に賛成するのだか、民主主義という「宗教」の致命的な欠点は、「人間の能力に幻想を求めることで成立する」という点である。
 民主主義とは、有権者の大多数が皆、政治、経済、外交、安全保障といった視点に対し一定以上の知識、見識、判断力を持っている、という幻想の元に成り立っている制度である。

 しかし、である。

 自分自身も含めて回りを見渡したとき、一般大衆の中にそれだけの知的能力を持った人間がどれだけいるであろうか。

 私が民主主義という制度、というよりも日本にはびこる「民主主義真理教」ともいうべき一種の”宗教”に、どうしてもいかがわしさを感じざるを得ないのは、それらを信奉する人たちが、故意なのか無意識なのか、前述した人間への幻想を無条件に信じているからだ。
 
 古代ギリシアで直接民主主義を完成させた政治家としてペリクレスがおり、世界史の授業でも「民主主義の完成者」として教えている。しかし、ほぼ同時代の歴史家ツキディデスはペリクレス政権下の「民主政アテネ」を冷徹に指摘する。

「概観は民主制だが、内実はただ一人が支配する体制」であったと。

 私は、「独裁者ペリクレス」を批判するつもりは全くない。むしろ、「民主政の仮面を被った独裁者」「偉大なる偽善者」であったからこそ、ペリクレスは真に偉大だったのだと考えている。

 塩野氏は冷徹に書く。

 民衆派の頭目でありながら、その誰よりも民主主義を信じていなかったのがペリクレスであったと。

 一般民衆の能力の現実を考えれば、その多くが国政への正常な判断力を備えていると考えること自体が、愚かな幻想でしかない。

 であれば、民主制を運用する最善の方法とは、ペリクレスのように外見は民主政治家の演技をしつつ、実質的には独裁を施くことではないか。

 本書「パクス・ロマーナ」の主人公、アウグストゥス、あるいはカエサル・オクタヴィアヌスも、外観上は共和制を守護する演技を続けながら、実質的な帝政の道を切り開いた、「偉大なる偽善者」の一人である。「民主主義=善」「独裁=悪」等というのは、全く有害無益な思い込みでしかなく、政治にはただ「善政」か「悪政」かがあるだけだ、という塩野氏の主張に、私は全面的に賛成する。

 私達のような一般民衆には、夢も幻想もあって良いだろう。

 しかし、国家の最高権力者に必要なものは、夢でも幻想でもなく、真摯に現実を直視する冷徹さである。そして、アウグストゥスはそのような人物であったからこそ、私達のような無名の民衆が夢も希望も持って生きていける国家を作りあげる事が出来たのだ。

「あなたのおかげです。私たちが自由で平和に暮らしていけるのも」

 死の直前、皇帝アウグストゥスに向けられた無名の民衆の感謝の言葉。

 この感謝の言葉の重みを思うとき、日本のインテリが叫ぶような民主主義がどうの、独裁がどうの、といった議論がいかに不毛かつ無益であるかを感じずにはいられない。
ゆっくりと急げ ★★★★★
 劈頭一番、私にアウグストゥスという偉大な人格を教えていただいたことに、著者へ最大級の感謝を捧げたいと思います。将にアウグストゥスという人は平凡という才能によってローマ帝国を400年の命脈ある、世界史上抜きがたい大きな存在に仕立て上げた一大立役者であるはずなのですが、前時代の華々しい英雄列伝の影に隠れて一般の歴史的な興味からは、たとえシェークスピアの影響があったとしても、思慮の浅いカップル、クレオパトラ・アントニウスの敵役としてぐらいしか認識されていないような状況は、あまりに不当としか言い様がありません。彼のようなゆっくりと、しかも確実な営為をなしたものこそが真にローマの礎であり、ひいては歴史を動かしているのです。ぱっと出てさっと消える類の英雄譚は確かに颯爽として痛快ではありますが、それが歴史の主軸であるかのような認識は限りない曲解を産み、歪な歴史観を生むことになるでしょう。著者は作家としての奔放さを旨に本シリーズを書き進まれていますが、決してこのような着実な努力を書き漏らすことはありません。まったくもってすばらしいことです。
 歴史とは本来人の歩みであるべきで、塊としての歴史の流れを強調する史観には同調しかねますが、方や英雄のための歴史でも無いのです。個人の力が歴史を変えることはよくある事といえども、それは他の無数の語られる事のない多くの平々凡々たる個人の日の当たらぬ努力の積み重ねがあればこそ、ということを無視しては何にもならないでしょう。アウグストゥスという人格はそんな無辜の人々の代表のように見えてなりません。40年の治世を淡々と多くを語ることなく成し遂げた彼は、著者が結びに引用している人々からの賛辞のように、歴史家を楽しませることを犠牲にして、つまり、後世の評価を無視して、同時代人のために働いた。このような人の一般的な評価はもっと高くてしかるべきです。
ローマはなぜ帝政を選んだのか? アウグストゥスはいかにして帝政の基礎を築いたのか? ★★★★★
カエサル死後の内乱を制し、初代皇帝として帝政を開始したアウグストゥスを描く。
本巻での読みどころは2点、(1)ローマはなぜ帝政を選んだのか? (2)アウグストゥスはいかにして帝政の基礎を築いたのか? 

当時のローマが執っていた執政官制度、元老院による寡頭政治という体制の限界や問題点については本巻以前の巻でもたびたび触れられてきたところであるが、直接民主制というある種、理想的な政治体制から帝政を選んだローマの選択はいかにしてなされたのか、影響、反動など俄然興味をひかれるところである。またカエサルさえ成しえなかったことを、内乱という騒乱を経た上ではあったものの、皇帝による統括という路線をアウグストゥスはいかに成し遂げていったのか・・・。

著者は本シリーズのそれまでの巻と同じく事柄をひとつひとつ事細かに記していく。内政、外交、政治的駆け引き、軍事・・・、社会の変化、文化等々。冒頭の2つの事柄についても,著者は事象を省略することなく記していく。とりあげられる事柄はひとつひとつ興味深いのだが、逆に細かい部分を漫然と追っていると、木を見て森を見ないことになってしまうかもしれない。
それにしても、材料を重ねていき、全貌を描いていく著者の記述スタイルの見事なこと! 知的好奇心が刺激される。

勉強になります ★★★★★
一見、前2冊よりは興奮の度合いが劣るか、とも思う。ただそれは、著者の筆力や情熱が衰えたわけでは無論なく、カエサルとアウグストゥス、さらに彼らを生み出した時代の違いということなのだろう。著者も再三述べているように、アウグストゥスは、興奮ではなく「人を感心させる」男だ。1巻から通しで読んでいる人はもちろん、大組織の「改革」と、何よりその「定着」を目指す全てのリーダーにとって、最良の教科書になるのではないか。