ですが、この本で浅田先生は、実際の体験を出来うる限り戯画的にさらけ出しているのに、まだちっとも語り尽くしていないことが見え隠れする。もしかしたら浅田先生と同じ世界に生きている方が聞いたら失礼な表現かもしれないですが、奈落の、光が底に行き着かずに消える暗がりをガラス越しに見るような話が、一巻と合わせてみると目白押しです。ぞっとするほど陰惨な現実が想像もつかない姿をして存在することを感じます。人生の深みだとか、世間の裏表を渡り歩くだとか、そんなことばでも奇麗ごとでしかない、そんなものではない世界が実際に手に届くところにある。恐怖ではないですか。その恐怖を現実に生きてきた体験談がつづられているのです。みずから奈落にガラスなしではまり、逆にはめてきた事実を提示している。
ただの楽しい読み物として読むにも十分楽しいし(もしかしたら浅田先生の望む読み方のひとつかもしれません)、ノンフィクションの体験記として自分の現在の場所に照らし合わせるもな本だと思います。ただ、読んでいて、浅田先生の言う通り、『事実は小説より』本当に『奇』=奇妙・怪奇なのだということを、少なくとも頭の中では理解出来る気がしました。
ひまつぶしにも最適で、気分が落ち込んでいる時にも、この本は絶好の「心の栄養剤」となるに違いありません。