本作も例によって半端な宙ぶらりんの人生に飽きが来ている若者が主人公。亡くなりかけている父から爵位を継ぐことに逆コンプレックスめいたものを感じ、母からは財産目当ての見合結婚をしつこく押し付けられ、職場やその他の普通の社会に!溶け込めないでいる生煮えの青春像。アマチュア騎手であり、アマチュア・パイロットであり、すべてにおいてアマチュアであることに未消化なものを抱き続ける灰色の日々。すべてがグレイなヘンリイ・グレイの物語。彼がいかにしてプロになるかの物語なのである。
そういったグレイが何かを求めた転職した先の馬匹輸送専門のエアカーゴ会社。そういう意味では物語は空間的にスケールアップし、アメリカやイタリアへと主人公は飛越を求める。ミラノで恋に落ち、そして罠に落ち、そして例によって主人公は地獄を見る。バイオレンスの権化ともいうべき少年ビリーの、反貴族感情がグレイらに爆発してゆく様子は目まぐるしく、希望がない。例によって読者は徹底してやきもき、苛々させられる。グレイの甘い判断の連続と、悪党どもの周到攻勢ぶりにはだれだって悲鳴をあげたくなるに違いない。
ラストは原題通り FLYING FINISH 。お待ちかねの小説的カタルシスがスリル満点に語られる。前半の伏線が効果的なぎりぎり最終のシーンは、思わず手に汗握る迫力で、これまで耐えていた忍苦のすべてがここに至って必ずや救われるはずである。
フランシスは冒険小説的ではないと思われる、そういう傾向の方に是非とも薦めたい一冊。