久々に村上龍らしい小説を読んだ
★★★★☆
村上龍の初期の作品の大ファンは、最近の彼の小説を物足りなく感じていると思う。私もそうだ。しかしながら、本書はいかにも村上龍らしい作品であり、村上龍にしか書けない内容となっており、大満足した。『五分後の世界』の世界観をそのままに、もう一つのストーリーが展開する。村上龍が自ら最高傑作と見なすほど、私は『五分後の世界』を優れた作品とは考えていないが、その独特の世界観が本作によって掘り下げられている。地下に潜った日本軍司令部、連合国によって占領された日本、半ば奴隷と化したネイティブ・ジャパニーズ、そして圧倒的な破壊力を持つヒュウガ・ウィルス。このような言葉の羅列のみでは本書が単なるSFのように勘違いされてしまいかねないが、本書は強烈なメッセージを有した文学作品である。すなわち、本書は、強烈な危機感を有した人間のみが克服できるヒュウガ・ウィルスを描くことで、危機感というものを失った現代人、そして現代の日本人を批判し、生き方をあらためて問うているのだ。無口で、頭が良く、身体が強靭で、強烈な危機感を持つUG兵士は、村上龍の作品でこれまで繰り返されて来た言わば理想の人物像であり、現代の日本人を挑発している。
『コインロッカー・ベイビーズ』や『愛と幻想のファシズム』に比べると、本書は読み応え、エロティシズム、美的さ等について決定的に劣っているものの、村上龍の代表作の一つと言っていいだけの出来である。本書が発表されたのが今からもう10年以上も前のことであり、それ以降の村上龍の作品がイマイチ冴えないことと、今に至るまで本書を手に取らなかったことは返す返すも残念である。
前作に比べると??
★★★☆☆
「5分後の世界」の出来が良かったので本作も期待していましたが、その内容については「がっかり」としか表現できないものでした。氏独特の勢いのある言葉や、リアリティのある描写が少なく、キレに欠ける作品だと思います。
作家の力量を感じる作品
★★★★★
「半島を出よ」とか、この作品を読むと、村上龍という作家の馬力を感じてしまう。
テーマを選択するマーケティング、データを集めて専門家に検証するリサーチ、フレームを構築するデザインエンジニアリング、そして読者をぐいぐいと引っ張っていく筆致と言うプロダクションが揃っていると思う。正当なジャーナリスト、もしくは建築家の仕事のようだ。これは彼がホストを勤めるテレビ番組を見ていても同じだ。もともと美術大学出身で風俗的な作品で衝撃的なデビューを飾った作家の進化、敢えて進化と言おう、の経緯が非常に興味深い。
本作品ではウイルスと抗体の戦いが、ミクロの世界と現実の世界で平行して進んでいる。それをもうひとつ別の世界の近未来史の中において、力関係を観察しているという風情だ。そして役者が出そろったところで物語は突然終わりを向える。作家にとっては、このフレームワークを完結することが重要であり、物語の結末は押して知るべし、と言うことなのだろう。「5分後の未来」の世界を舞台にしたアナザーストーリーであるが、独立した作品として近未来シミュレーション、SF作品としても秀作だと思う。
前作に比べると
★★★☆☆
スピード感、存在感、世界観が前作に比べるといまひとつ。
なんとなく不満が残る。
文体とパスの精度
★★★★☆
ロシアンマンボという表現が秀逸ですね。
作者が読者にイメージさせたかった映像、喚起させたかった感情をこれほど正確に射抜ける言葉はそうないのでは?