でもH・G・ウェルズがこの「タイム・マシン」を世に発表したのがもう百年も前だと聞くと、ちょっと愕然としませんか。そうなんです、これはものすごい古典なんですね。
この本におさめられている短編と中編はどれも独立しています。表題になっている「タイム・マシン」は一番の見所ですが、H・G・ウェルズが火星人襲来を描いた『宇宙戦争』を思うと、「水晶の卵」という火星関係の短編も趣き深いものがあります。
この物語の語り手は、タイム・トラヴェラー。名もあかされない謎の青年です。そしてこの青年こそが、その謎の装置を作りあげるのです。そして彼ははるか先の未来世界へゆきます。そこではエロイという美しい小人たちとモーロックという醜い地下人種が分かれて暮らしていて、彼はエロイの一少女と親しくなるのですが……。
百年前に生み出された物語とは思えないおもしろさ。いえ、百年たっても、こうして異国の書肆でも気軽に買えるような形態で残っていること自体が、この物語の不思議かもしれません。
ラストに登場する枯れた白い花がなんとも印象的です。それは現代の私たちにとっては未知であるはずの花です。でもこんな可憐な花を、だれもがいつか目にしたかもしれません。ずっと昔、自らの中に。