訳者の後記にあるように、「どこか生活の機能が充分でないために、実生活の重圧にたえかねてほろびていく人間」を描いたものが多い。どれも珠玉の名編だが、特に、「衣装戸棚」という掌編は叙情的な夢幻性を感じ、この短編集の中でわたしは一番好きだ。
訳文がすこし生硬なのだが、同出版社の「ヴェニスに死す」や「トニオクレエゲル」を楽しめた人は、違和感なく読めると思う。