道鏡の柔らかな愛を選び、反藤原の宣言をする孝謙上皇と、自分を政治のコマとしてしか愛していなかった仲麻呂との決戦。上皇は勝利し、自ら称徳天皇となり政治を司る。
しかし、天皇の傍らには仲麻呂のあとに道鏡がいる。天皇は藤原の変わりに他氏族をとりたてようとする。行っていることは、本質的には氏が変わるだけで何も変わらない。
遠くから歴史を眺めているから言えるのであって、阿部にそれを要求することはやはり無理だろう。宇佐八幡の信託を(自ら判断し)告げた和気清麻呂と広虫を遠ざけるのも道鏡への愛ゆえなのだから。
「寵臣(ちょうしん)」という言葉がある。「忠臣(ちゅうしん)」という言葉がある。小さい「ょ」と「ゅ」の違いだけだが、こんなにもひびきが違ってくる言葉はそう多くない。
道鏡という忠臣を寵臣とした阿部は女ゆえ、純粋に道鏡を寵した。これが、阿部の「普通の女」への憧れと、自分の立場に対する反抗だったのだろうと思う。
阿部を最後に女帝の時代は終わる。江戸時代の後桜町天皇がその後唯一の女帝である。
天武天皇系の最後の女帝の生き様と苦悩を描いた珠玉の逸品です。