読み応え充分な海洋冒険小説であり国際謀略小説
★★★★★
上巻では場面が頻繁に切り替わり展開が遅かったきらいがあるが、
下巻では張られた伏線が収束して行き、感動のラストを迎える。
ハリウッド映画の如く、読者の期待通りのストーリー展開を見せる。
ただ、難を言えば、作者の都合が優先する展開があったり、テロリスト
があっけなく死んでしまったりする部分が気になった。
そもそも、あえて目立つハイジャックをする必要があったのか疑問である。
終盤はグレート船長柚木マンセーの描写が演出過剰気味に思えたりもする。
とはいえ、海洋冒険小説、国際謀略小説として読み応え充分な作品である
事は間違いない。
ジャパン・コーストガードの面目にかけて
★★★★★
テロリストにより占拠された貨物船「パシフィック・ローズ」を嵐の中操舵しながら、船員達の命と希望を守るために尽くす船長柚木静一郎。
それを救いたいと手を尽くす国際海事曲海賊情報センター勤務の娘、柚木夏海。
対峙するテロリストのほか各国の思惑や、組織内の軋轢、などがパシフィックローズの救出を阻み、ラストまで気が許せない展開で、大変面白く読みました。
最後の美しい場面は涙をおさえられませんでした。
たいへん面白い小説一気によんでしまいます。
第6回大藪晴彦賞受賞
★★★★★
第6回大藪晴彦賞受賞。
2004年度版 このミス 13位
伝説の船長柚木の最後の航海は老朽船「パシフィックローズ」。
しかし、この老朽船がテロリストにより占拠され、柚木らはロシアへ向かうように指示される。ロシアで待ち受けるのは旧ソ連時代の驚異の生物細菌兵器。有効な解毒剤がないため、驚異の兵器として封印されていたこの兵器を巡り、日・米・露、それぞれの思惑が交錯する。
テロを阻止せんとする柚木。柚木を懸命に捜索する娘の夏海、そして、兵器を開発し米国へ亡命した科学者ザカリアンなど、キャラクターのたてかたもうまくできている。
たしかにディテールの甘さがあるし、たとえば、用意周到なテロリストが、後半急に弱くなる!!など、作者のご都合ですすむ展開等、欠点もある。
しかしこれらの欠点を差し引いても、十分に優れた海洋冒険小説であり、一読の価値がある作品として、おすすめできる。
同じ年に「終戦のローレライ」という海洋冒険小説の怪物がいなかったら、もっと注目を集めた作品だと思う。
私にとって2003年、掘り出し物の一冊となった。
伏線がちょっとくどい点を除けば
★★★★☆
パシフィックローズという老朽船とその船長を主人公とした海洋冒険小説である。主人公が生涯最後の航海で船を民族自決を掲げるテロ組織にシージャックされ、奪還すべく、陸で国際海事機関に勤務する主人公の娘他と協力するというストーリー。結果がハッピーエンドになることは、読み始めるときから分かってはいるのだが、徐々に引き込まれていってしまう文章力のうまさがある。前半の伏線の記述がちょっとくどくて、多少我慢しながら読み進めなければならないところがあるが、後半に入ると、そのくどいと思われたそれぞれの伏線が生きて、地理的にも時間的にも絡み合ってくる点は見事。
圧倒的なスケールで読ませる海洋冒険小説の傑作
★★★★★
国際謀略小説の分野では第一人者笹本稜平の’04年「第6回大薮春彦賞」を受賞した、1200枚に及ぶ超大作。
あらゆる脅威に敢然と立ち向かう海の男たちの矜持を高らかに謳い上げている。
「海洋版ダイハード」と呼んでもいいくらい、まるでハリウッドの大作映画を観ているような迫力を感じた。
老朽貨物船「パシフィックローズ」のベテラン船長柚木の、テロリストにハイジャックされながらも、嵐の荒海を操船する誇りに満ちた行動を中心に、脅威の生物兵器<ナターシャB>、アメリカ、ロシアの大国の思惑、ひそかに活動する両国の諜報機関部員、暗躍するロシアンマフィア、亡命したアルメニア人の科学者、豪華客船の船医、謎の殺し屋、海賊情報センター職員で船長柚木の安否に一喜一憂する娘の夏海、「パシフィックローズ」を救わんと苦闘する海上保安庁の男たち。大掛かりな「謀略のスケール」と拮抗しうるさまざまな登場人物たちのそれぞれの「個人」をしっかりと描いている点は見事で、国際謀略小説と海洋冒険小説を融合することにも成功している。
とくにラストの2章は感動もので、私は読みながら久々に涙してしまった。