味のある恐怖
★★★★☆
1990年に光文社文庫として出たものの新装版。文字が大きくなっている。
岡本綺堂の怪談を集めたもので、「鷲」「兜」「鰻に呪われた男」「怪獣」「深見夫人の死」「雪女」「マレー俳優の死」「麻畑の一夜」「経帷子の秘密」「くろん坊」の10篇が収められている。
綺堂らしく味わい深い怪談だ。幽霊とか怪物とかの生々しい恐怖ではなく、微妙な筆調と雰囲気で読ませる物語であった。大人の怪談とでもいうべきか。
印象に残ったのは「くろん坊」。飛騨山中の怪異を語ったものだが、なんともいえない恐さがある。「兜」も嫌な話だ。
日本の昔話やコナン・ドイルなど、東西の物語を利用したものが目に付いた。綺堂の創作の過程も見えてくるような一冊であった。
ただ、綺堂の怪談集としては、光文社文庫の他の選集とくらべて、少し落ちるかも知れない。