真之の分析力の凄まじさに恐れ入るの巻
★★★★★
この巻の副題は『米西戦争を観る』となっているが、
上巻のレビューにも書いたように、むしろ戦闘経過の多くは上巻の中で描かれており、
いざ戦争が終結すると、真之の分析力が如何なく発揮されることになる。
カタカナ混じりの候文で書かれた報告はさすがに少し読みにくいものの、
米西の戦力の比較や具体的な戦闘経過、今後改善を要する点などについて、
正確な統計的数量を駆使しつつ展開される議論の鋭さと徹底ぶりは凄まじいばかりで、
この人物が後年、「智謀湧くが如し」と評された所以が少しは理解できたような気分になった。
(実を言うと、『坂の上の雲』を読んだだけではそのあたりがもうひとつ実感できなかったのだが、
司馬氏も本書に多くを負っている以上、二番煎じを避けるだけでも相当の苦労があったのかもしれない。)
それ以外にも、「小村寿太郎との対話」と題された一章での軽妙な会話の面白さや、
米軍練習艦隊に乗り組んでのカリブ海の航海の描写が
ラフカディオ・ハーンの紀行文を下敷きにしたと思える点など、
読みどころは非常に多く、本書がこのタイミングで復刻されたことに感謝したい気分になった。