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木曜の男 (創元推理文庫 101-6)

価格: ¥630
カテゴリ: 文庫
ブランド: 東京創元社
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スパイ小説というジャンルが生まれる前にできた、究極のスパイ小説パロディ ★★★★★
チェスタトンというのは本当に不思議な作家だ。スパイ小説というジャンルが生まれる前に、スパイ小説の究極のパロディを書いてしまったのだ! この本1冊読めば、どんなスパイ小説も結局はこの本をなぞっているだけということが分かる。スパイ小説いらずになる本。
個人的にベスト10に入る作品 ★★★★★
 ブラウン神父シリーズは途中挫折した、というか全部は読んでいない程度のチェスタトンファンだが、本書は雰囲気が全く違い、混沌とした独自の世界が広がっていて、モロ好みである。
 あまり著者の細かい経歴まで調べたりしないたちなので、他の方のレビューのそういう部分はとても参考になった。そうなのか、面白いね。全く無自覚だったけど、思想性のあるものが好きなんだな、私は。
 読まないで死ぬと損をする作品の一つだと思う。
どちらの訳も捨て難い ★★★★☆
ブラウン神父シリーズでおなじみ、また思想家としても有名なチェスタトンの、なんともまあ不思議な長編小説です。外形的には無政府主義組織の爆弾テロの企みをめぐる一種の冒険譚、ですが、とてもそれだけでは語り尽くせません。まずは御用とお急ぎでない方はご一読あれ!
とにかくいろいろな読み方ができます。冒頭からの、あれよあれよという展開(しかも最後に唖然とすることうけあい)を普通に楽しんでも良いでしょう。著者ならではの、ユーモアと逆説に満ち満ちた会話(男ばっかりの登場人物がやたらと飲み食いしながらしゃべるしゃべる!)や文章、そして思想を味わうのも一興。あるいは同時代的な文学状況のなかで、カフカやジョイスなんかと並べてみることもできるかもしれない。さらにはちょうど百年前の、世界戦争も社会主義国も知らないが、しかしすでに爆弾テロを知っている欧州、について考えるのもあり。などなど。
おまけ的に最近出た南條竹則訳と、古典といってよい(?)この吉田健一訳のそれぞれの特長(徴)をそれぞれのページに載せてみました。原文と比較対照したわけではないし、さらっと一読しただけなので不完全で一方的な印象ですが。
文字が小さい。のでページ数は少なくコンパクト。ほとんど50年前の出版ですが、会話に若干違和感があることを除くと思ったほど読みにくくはないと思います。個人的に強調したいのは、随所に現れるチェスタトンならではの警句や思想をそのものとして楽しむならこちらかと。例えば「彼は人間だったから、大きな力を前にして恐怖を感じる範囲では卑怯だったが、それを是認するほど卑怯ではなかった。」(P.80)。南條訳はもう少し口語調で自然な感じで(P.110)、ことによると原文のニュアンスにはより近いかもしれませんが、私は吉田訳のちょっと生硬な感じの方が合っていると思います。そうそう、中島河太郎の解説、というものに郷愁を感じる世代の方はやっぱりこっちでしょう。
チェスタトンの自伝的思想遍歴と救済 ★★★★☆
日曜日から土曜日まで、七曜を名乗る
男たちが巣くう秘密結社《七曜会》――。


この怪しくも魅惑的な集団の名に、私がはじめて
触れたのは『街』というゲームソフトにおいてでした。

そのゲームは、妖艶で世俗を超越した美女「日曜日」のもと、
《七曜会》のメンバーとなってターゲットを脅迫し、一万円を
支払わせるという、一見不条理劇のような装飾が施されていながら、
結末では、じつはスタンダードな成長物語であることに判明する、
といったものでした。


そのオリジナルだろうチェスタトンの本作も、
基本的には同じ構造のように思います。

正直、「神」や「宗教」といったことと無縁な生活を送る私には、
チェスタトンが抱えるアンビバレントな宗教的苦悩を正確に
推し量ることはできません。

しかし、なんとなくですが、理性によっては人は救われず、
己自身の空虚さに狂わされていくのみだ、といったことを
本作を通じて表現したかったのではないかと感じました。
渦巻くウロボロス ★★★★★
ブラウン神父物で有名なチェスタトンの数少ない長編。ブラウン神父物の機知・ユーモアとは別の不条理文学者としての本領を見せた作品。

全体の構成は怪しげな組織を舞台にした追跡型サスペンス仕立てだが、本題は現実認識の危うさである。物語の過程で主人公はハッキリとした自我を持たない。周囲の状況が把握できないのだ。そして、結末に到って状況は冒頭へと戻る構成。読む方は、物語が現実に起こったものなのか、主人公の妄想なのかも分からない。深い余韻を残す作品である。

チェスタトンの思想を反映した長編としての代表的傑作。