２０１０年時点で現存する各種の翻訳の中では、最もドイツ語原文に忠実な翻訳です。原文と対照してみると、"auch", "doch" なんていう副詞のひとつひとつまで丁寧に訳出されているのがよくわかります。一方、膨大な訳注は、この書を理解するのにあんまり役に立つものとは思いませんでした。ただ、文庫版になったときに追加された訳注は、グロイター版全集に付されている注解をそのまま翻訳したものですが、これはドイツ語が読めない読者には閉ざされていた情報を広く日本語の読者に公表したという意味で、有意義だと思います。翻訳の質の高さと、こういう有意義な情報を収録しているという点で、現時点ではこの古典のいちばんお勧めできる翻訳です。

有名な本ですが、本当に読み解くことができるのか、それが問題である本だと思います。
読む人自身が試される、そんな本です。主観を交えないで、まず向かい合うことが必要でしょう。
すでにこの上巻においても下巻で触れられる永劫回帰の思想への伏線がはってあり、思考、直観の響きのようなものを感じ取れます。