この本の「狂気の人間」のくだり(125番)で、狂気の人間は「神は死んだ」との言葉に続いて「神は死んだままだ」と叫びます。この「死んだまま」の『まま』にこそ、ニーチェの英知が示されているように思えます。
20世紀を理解するために、ニーチェ、フロイト、マルクスの3人を欠かすことはできません(科学の分野を加えるなら、ここにダーウィンを追加するべきでしょう)。この3人の中で、現在おそらく一番評価の落ちているのはマルクスです。ソビエトの崩壊により、彼は過去の人と思われがちです。でも、本当にマルクスの資本主義批判が時代遅れかどうかは、大いに疑問です。
私の中で一番評価の変わったのは、ニーチェです。ニーチェは危険な思想家です。--というような表現自体、実はニーチェ自身がとっくに自分で言っていることですから今更なんの意味もないのですが、でもこのことはよく考えてみる必要があると思います。
ニーチェは人間を、自分を含む優れた人種と蓄群に区別し、弱者から強者を救え、という逆説を説きました。若い頃の私は、言い換えれば、自惚れの強かった頃の、身の程を知らなかった頃の私は、こんなニーチェに圧倒されていました(身の程を知れ、というのは、私にとっては、汝自身を知れ、という意味です)。
ニーチェを無視することは無意味ですし、不可能だと思います。また、反面教師として扱うにも巨大すぎます。でも私は、ニーチェの思想のあるものは決定的に間違っている、と思います。とすれば、残されている道はただひとつ。ニーチェを徹底的に読み込んで、彼を「超克」することしかないと思います。
ニーチェから何を学んで、どこを切り捨てるべきか、是非ニーチェを読んで、彼の危険な魅力を克服して、新しい方向を見つけていきましょう。