初期の傑作短編集
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作者は途中からややブンガクの方へ走った感がある(勿論揺り戻しもある)が、私は初期のドタバタSFの方が好きである。本作は題名が示すように、人間の体を主なテーマにした傑作短編集。
収録作品は以下の通り。「蟹甲癬」、「こぶ天才」、「急流」、「顔面崩壊」、「問題外科」、「関節話法」、「最悪の接触」、「ポルノ惑星のサルモネラ人間」。
「蟹甲癬」は無論、小林多喜二の「蟹工船」のもじりであるが、パロディなのは題名だけで内容は全く異なり、背中に甲羅ができた人間達を描いて哄笑を誘う。「急流」は作者が筒井でなければ怒りたくなるような作品だが、最後に付けられた作者傍白「そんなばかな」と同じ感覚を読者も持って楽しめる作者ならではの作品。「顔面崩壊」はドド豆という豆によって顔面が崩れるという話を老人が昔話風に聞かせて、徐々に不気味さがこみあげてくるのだが、最後に待っているオチも楽しい。「問題外科」は医療事故が多い昨今、こんな医者もいるのではと、笑いと共に恐怖が募る作品。そして「関節話法(間接話法ではない)」は筒井の短編でベスト1に挙げる人が多い程の傑作。主人公は関節を用いて会話する星へ外交官として赴任する。しかし、人間に関節が自由に操れる訳がない。外交官として、重要な席で彼らと会話(!)せざるを得ない主人公、ままならない関節。抱腹絶倒の物語が展開される。私は読みながら、涙を流しつつ、笑い転げてしまった。「最悪の接触」は宇宙人とのコンタクトものだが、相手は別に人間でも構わなく、感情・風習のすれ違いがエスカレートしてドタバタに発展するという筒井得意のパターン。
最近は書店へ行っても、「自選ホラー傑作集」、「自選ドタバタ傑作集」等が目立つ筒井の棚。こうした初期の傑作短編集も是非、揃えていて欲しいと切に願う。
こんなワタシに誰がした
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とんでもない作品だ。
筒井の天才とおれの凡才が永遠に交わることなどないが、
こんなモノをおれが中学生頃に筒井は雑誌に書きまくっており(ホントは練りに練られており遅筆だったそうですが)、
何も知らないおれたちはそれを読んでケケケ発狂し女子高生を犯し、睡眠薬をむさぼり食い、教科書を山羊のように喰い、警官を撃ち、
けけけけけけこんなオトナになってしまったのだぞそんなことはおまえらが勝手にやっただけでおれはしらんもんね。
で、時は早くなり、時の川の流れをどんぶらこどんぶらこと桃太郎はさかのぼり、
じいさんばあさんを虐殺し、鬼のメイドにマッサージを強要し、
七瀬のテレパスが炎の中に飛び込めと、いやなのにおれの足は一歩ずつ前に前に進んでゆく。
ああ、地獄の釜は熱いだろうな、飛び降りて死ぬのとどっちが良かったのか、とか、
時間が止まってアスファルトの上に寝ているおれが目覚めると、じりじりと大型トラックの車輪がおれの胸にめり込んで・・
と筒井康隆の作品群が混線してぐるぐる渦巻くのだった。お助け!
何度読んでも面白い
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私がこの本に出会ったのは小学校6年生のときでした。
星新一の本を読み終えた私が手に取った筒井康隆の世界は星新一が見せてくれた世界とはまた別の毒と笑いを含んでいて、私は筒井康隆にとりつかれました。
現在、このようなタイプの小説を書く人間はいないので比較できないのですが、「小説で爆笑できる」というのは非常に心地よいものです。
筒井ワールドの最高の入門書だと思います。とりあえず「関節話法」でも読んで笑い転げてみてください。私はもう5回読んでいますが、いつまで経っても斬新です。
私的ベスト短篇集
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はじめて読んだのは中学生のときだった。筒井体験。頭を思い切り殴られたような気持ちになって、その日はなかなか寝つけなかったのを覚えている。書かれてる内容は相当キツイ。けれども決して下品にはならない。筒井さんは、やっぱりすごい。
名作「関節話法」あり
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単行本刊行昭和54年、文庫本発行昭和57年。短篇集。本の正式名称は「宇宙衞生博覽會」。目次は「」「蟹甲癬」「こぶ天才」「急流」「顔面崩壊」「問題外科」「関節話法」「最悪の接触(ワースト・コンタクト)」「ポルノ惑星のサルモネラ人間」。身体という自然を描いている作品が多いことが特徴。美というよりも醜のほうだ。生理的不快感はワンランクアップ、次のレベルへ。ある生物を絶滅寸前まで食べ尽くしたあとにくるしっぺ返しのような感染症「蟹甲癬」。高能力が必ずしも明るい未来をもたらさない「こぶ天才」。圧力鍋を使った豆料理恐怖症を引き起こしそうな「顔面崩壊」。怒張を誘う「問題外科」。猥褻生態系とさえいうべき世界を描いた「ポルノ惑星のサルモネラ人間」。この作品を書くために桊??高敏隆著「エソロジーはどういう学問か」を参考にしたことが「みだれ撃ち涜書ノート」(とくの字は旧字体)に書いてあるので併読をおすすめ。そしてそして小説とは何をどのように書いてもいいのだ!と人生観さえ変えていただいた「関節話法」。説明は省略、よむべし。ちなみに新潮カセットブックも出ている。聴覚側から読み(聞き)込むとまた違った面が見えてくる。解説は関井光男。