自分にも襲いかかるかもしれない
★★★★☆
犯罪を犯し、刑務所に入った本人と家族被害者などの葛藤を描いた作品では、映画にもなった(私が嫌いな)東野圭吾の「手紙」が有名だが、あれの数倍面白い。もう全然レベルが違います。
自分の彼女にちょっかいを出すチンピラにひと言注意をしに言ったとき、相手からいきなり不意打ちでボコボコにされ、たまたま護身用に持っていたナイフで刺し殺してしまった主人公。裁判で5-7年の実刑を喰らい少年刑務所へ。
実刑の理由が相手側の証人の偽証の証言。
このような状況では、刺し殺した事に関して反省はしているが、すべて自分が悪いのか、相手にも非があるのではないのか…と心から納得せずに罪に服している。
務所の中では普通におとなしく過ごしたため、1年を残して仮出所。
そこから、主人公の母親、妹、昔の友人、被害者の家族、被害者の元彼女、妹の婚約者、一緒の時期に仮出所してきた刑務所仲間、保護司夫婦、勤務先の社長と社員たち、偽証の証言をした男たちとのどろどろのやり取りが描かれている。
反省はしているが、相手にも悪いところはあると思っていたら、心からの謝罪は出来ない。しかし自分が引き起こした事件で、自分の家族が回りから白い目で見られ、近所に「この男は殺人犯です」というビラまでまかれ、何か事件が起こるとすぐに警察に疑われ連行されてしまう主人公。
加害者と被害者が常に入れ替わるようなストーリーは、読み始めたら途中で本を置くことができない。
罪を償ってもそれは法律上の償いであり、一生背負わなければならないとはわかりつつ、ここまで卑屈に生きなければならないのか?
しかし実際に自分がそのような立場にならないとは断言できない。何かの弾みで交通事故で人を殺してしまうというような可能性は、皆が持ち合わせているからだ。
殺そうという明確な殺意があったからではなく不注意で殺してしまった場合とか、ずっといじめられていたので、復讐で少し痛い目にあわせようとして殺してしまった場合、飲酒運転をしていたら相手が飛び出してきてひき殺してしまった場合とか「相手を殺した」という事実や結果は同じでも、やったほうは弁解したいが、残された遺族にとってはすべて殺人事件だ。
いつこんな事が自分に起こってもおかしくない世の中で、自分ならどうするだろうか…と常に煩悶しながら読むという本は苦痛だが読み終わったらそれなりに感じるところが大きかった。
心情はわかりますが・・・。
★★★☆☆
殺人罪で服役した人々の心情描写は、そういう経験のない者にとっては「そうなのかもなあ」と納得する部分はあります。
殺したのは悪いことだ。確かに自分が最も悪いんだけれど、「あいつが彼女にちょっかいを出さなければ」「あいつが殴ってこなければ」「あいつがウソの証言をしなければ」「じいさんが飛び出してこなければ」と被害者側を恨む気持ち。
道徳的にはいけないことだけれど、だからこそ人間的という気もする。
ただ、展開として「どうして証言者に会いに行かなければならなかったのか」がわからない。ナイフを使ったという「明らかな非」がある主人公隆太を真に”更正”するに至らせるために強引に持っていった感がある。
期待はずれ
★☆☆☆☆
犯罪を犯しながら『自分ばかりが悪いのか』そればっかり・・・
後半の展開を期待したが平凡そのものでひどくがっかりした。
この本が初めて読む真保さんの本だったらもう二度と
真保さんの本は読まないだろうと思ったくらいガッカリ・・・
真保さんの作品が好きなだけに期待し過ぎました
社会で生きるとは。
★★★★☆
これまでの真保作品のイメージとは違った。
私の中では、エンターテイメント性の高いものというイメージが強かったが、
今回は社会の中で生きることに真っ向からぶつかった作品。
殺人を犯した人が、刑務所から出てきてどういう生活をするのか、
想像以上のつらい現実と、その当事者の葛藤をうまく表現している。
真保作品らしく、かなりの取材からえただろう、現実がたっぷりつまった作品。
保護司が印象的だった
★★★★★
加害者の立場で見れば、加害者だけが悪いわけではないにも関わらず懲役7年の判決がでたこと、罪を償って出所したあともちょっとした騒ぎですぐに警察に厄介になること、仕事先でも打ち解けられないこと等、同情する気持ちにもなる。ただ、被害者の立場で見ると、なぜ被害者が殺されねばならないのかという理不尽な気持ち、殺人犯がたった6年で仮釈放されたこと、すぐに謝罪にこないこと等、加害者を許せない気持ちになるのも分かる。結局のところ、第3者ではどちらが正しいとは決められず加害者、被害者それぞれの問題だというのが物語の結論なのだが、この小説では保護司の大室が印象的だった。被害者の恋人を諭す場面はどうやって説得するのか興味深かった。