著者と版元に拍手とエールを送る
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「蟻の兵隊」については著者が監督した同タイトルの映画により初めて知った。
衝撃的なドキュメンタリーだった。無名の監督の、営業的には地味かと思われる
作品が、心あるジャーナリストや若者たちの間で話題となり、異例のロングラン、
地方の映画館からも次々に上映希望が届き、やがて全国に広がっていった。
監督が40代と若く、当事者たちの孫の世代にまで事実を届け、共感を広げる
ことに成功したことに因ろう。
山西省残留兵問題。敗戦後、残留を命ぜられ中国共産軍と闘い続け捕虜になり、
戦後10年もたって帰国した彼らは、しかし「逃亡兵」とみなされ戦後補償をも
拒否され続けている。日本政府は、彼らが”自分の意志で帰国を拒み、勝手に
戦争を続けた”とみなす立場を今も変えていない。当事者の多くが亡くなり
歴史の闇に葬られようとしているこの事件。
映画では入りきらなかった資料や事実の詳細を、当事者達の証言とともに
活字に残し得たことの意義は大きい。今後の検証と歴史に事実を残すことへの
一助となろう。願わくは彼らの存命中に、彼らの名誉と尊厳が回復されんことを。
残された兵士
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敗戦後多くの兵は帰国したが、山西省においては最終的に2600名の将兵が残され、しかも、国際法違反ながら、国民党軍と一緒、最終的には国民党軍に編入され、共産党軍と戦う結果になった。その一部は帰国し、多くが死亡し、残りは捕虜となり、その一部が帰国できた。しかし、彼らは国際法違反をクリアーするため、残留の時点で、自主的に残った、逃亡者であり、軍籍もなくされ、つまりもう日本の世紀の兵ではないと処理され、恩給の対象にもならず、裁判でも認められず、悲惨な運命をたどっている。もはや、生き残っている人はわずかである。最近、映画化された。
兵はどのように切り捨てられるか
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山西省残留日本兵問題はほとんど世間に知られることもなく、関係者たちが亡くなるの待つかのように、幕が引かれようとしている。この問題について、入手しやすく読みやすい本はほぼ皆無であったから、この本の出版は非常に意味がある。複雑な事実関係をよく整理して、かつ人物を活写した良書。この本のお陰で、私の理解は大幅に深まった。兵はどのように切り捨てられるのか、戦争と人間と国家について考える人にはぜひ勧めたい。